本番まで一週間

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本番まで一週間

二藍(ふたあい)高校の演劇部は、シェイクスピアの喜劇「十二夜」を演じることになった。 順調に練習を重ね、公演まで一週間を切った頃、オーシーノ役の(たちばな)が、突然「できない」と言い出した。 「僕にはできない。できないったらできません。 誰か代わりにやってください!」 オーシーノは、主人公が思いを寄せる公爵で、この劇の最も重要なキャストのひとりである。 まだ一年生の橘が、プレッシャーを感じるのも無理はない。 きっと緊張して、自信をなくして、こんなことを言うのだろう。 部長の浅葱(あさぎ)は、そう考えた。 「橘くん」 浅葱は、穏やかな微笑を浮かべ、橘の肩にポンと手を置いて言った。 「どうして急にそんなことを?  今までみんなで一緒に練習してきたじゃないか。 俺は、橘くんのオーシーノは素晴らしいと思うけど……」 橘は顔を上げて答えた。 「そりゃあ、僕は素晴らしいでしょうよ。 決まってます。 僕のクールで美しいオーシーノに、観客は、ハッと息を飲み胸をおさえ、動悸息切れめまいを起こしてしまうかもしれない」 浅葱は、面食らって言った。 「……だからできないって?  ええと、みんなの動悸息切れめまいが心配で?」 「違います」 「じゃあどうして?」 「僕が完璧じゃないからです……ああ。完璧だと思っていたのに!」 「完璧じゃない、だって?」 橘が髪をかきむしっている。 浅葱は困りきって、他の部員たちの顔を見渡した。
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