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他人以上の知り合い未満
時刻は夕方と夜の間、だいたい、18:00前位の時間だろう。
逢魔が時を示すような空色が、今僕が座っているファミレスの席から窓越しに、綺麗に見えている。
こういうときは、こういう日は、時計を見ずに時間を推測することが、僕はなんとなく好きなのだ。
そしてそんな風に空を眺めていると、ファミレスの店員さんが料理を運んできてくれた。
「お待たせしました。こちらハンバーグ&エビフライとライスでございます。」
そう言いながらその店員さんは、小さく手を挙げた僕の前に、その料理を運んだ。
そして次に「お待たせしました。こちらビーフシチューオムライスでございます。」と言いながら、ほとんど変わらないタイミングで、別の店員さんが料理を運んで来てくれた。
そしてその店員さんは、今僕の前に座っている、同じ高校の制服を着ていて、1つ年上である、その女の子の前に、料理を運んだのだ。
さて、どうして今僕は、女の子と2人でファミレスに居るのか、先程までの展開を見ている人なら、もしかすると説明しなくてもわかるかもしれない。
それにあまり、僕自身が説明する必要はないのだろう。
だってそれは、今からこの女の子が言うセリフを聞けば、明らかなのだから。
そう思いながら、いただきますと言いながら、僕は自分の前に運ばれた料理に口を付けようとすると、それを見たその女の子は、正面に座っている僕に言った。
「ちょっとまって!一応確認させて!」
「はぁ、何ですか?」
僕は食器を置く。
そして同時に、僕はその女の子が言おうとしていることを予想する。
そしてその予想は、きっとどんな問題を予想するよりも、どんな問題を解くよりも、簡単なことなのだろう。
そう思いながら、そう予想しながら、その女の子を見ていると、その子は口を開いて、こう言った。
「ここを奢れば本当に、クマタローコラボカフェ、一緒に行ってくれる?」
その言葉に、その予想が当たったことに、『ほらね』と思いながら、僕は彼女に、少しだけ口角を上げておく、なるべく愛想良く、こう言った。
「はい、いいですよ。」
「よし、言質は取ったわ、食べてよし。」
「僕は犯罪者か何かですか?」
「別にそんなことは言ってないわよ。ほらほら、早く食べないと冷めちゃうわ。」
「そうですか。それじゃあ、いただきます。」
僕と彼女は、そんな風に軽口を叩いて、食事を始めた。
そして考えてみると、その食事は久しぶりに誰かと過ごす、夕食の時間だったのだ。
簡単に説明すると、彼女が欲しがっていたクマタローのシークレットのストラップには、一緒に期間限定コラボカフェの招待券が同封されていて、それが欲しくて彼女は毎回、あのガチャガチャを見つけては、必ず一回は回す様にしているらしいのだ。
そして先程、僕はそれが取れなくてへたり込む彼女の目の前で、それを当ててしまい、そしてそれのそれの同行をせがまれて、今に至るのだ。
「それにしても、わざわざこんなことをしなくても、あの券とクマなら先輩に差し上げたんですよ?」
食事の途中、食べ物を飲み込んだ後、僕は彼女に話し掛ける。
そう、別に僕は、このクマタローとかいうキャラクターのファンでも何でもない。
だから僕は、それが当たって直ぐに「良かったらあげましょうか?」と言ったのだ。
「だめよ、それじゃあ私の気が済まないわ。それにそれは、ものすご~く貴重なモノなの。だからそんな簡単に他人にあげちゃだめだし、私も貰えないわよ。」
「はぁ...そうですか。」
そう、彼女はさっきも同じように、僕にこう言って、頑として受け取ろうとはしない。
「先輩って...奇特な人ですよね。」
「なんとでも言いなさい、後輩君。」
そう言って膨れながら、彼女は再び食事を進める。
そしてその食事をしている仕草になんとなく、女の子らしさを感じた僕は、何故か慌てて視線を外して、自分の食事を再開した。
そうだった。
あまりにも急転直下な出来事過ぎて忘れていたけど、今僕は女の子と2人で食事をしているのだ。
そう考えると、少しだけ顔が熱くなった気がした。
「それで、いつにするの?」
「えっ?」
「コラボカフェの日程よ、日程。その券いつまでだっけ?」
「あっ...えっと...」
そう言いながら、僕は自分の鞄にしまっていたカプセルを取り出して、そしてその例の折りたたまれた招待券を開けて見せた。
券には5月の中頃から6月の上旬の日程が記載されていて、今がまだ4月の下旬くらいなので、どんなに早くても半月近くは余裕があった。
「結構時間がありますし、僕はいつでもいいですよ。」
「本当?助かる~バイトとか部活とかまだ予定立てれてなかったからさ~」
そう言いながら彼女は、自分の予定張を開いて、そう安堵した様子で言った。
その言葉を聞いて僕は、部活もしながらバイトもしているなんて、本当に奇特な人だなと、しみじみ思ったのだ。
「ありがとうございましたー」
食事を終えてファミレスの外に出ると、空は明らかに暗くなっていた。
お会計は合計で1300円くらいだったろうか、彼女は割引券を持っていたらしく、思いの外安く済んだと、会計をしながら喜んでいた。
そしてそのファミレスの近くには、彼女が利用しているバス停があって、そしてそれで丁度、タイミング良く、バスが来ているところだった。
「先輩、このバスですよね?」
「うん、丁度来たね。」
そう言って彼女は、自分の定期券を持って、バスに乗るための準備をしていた。
そしてその姿を見て、僕は慌てて言葉を紡ぐ。
「あっ...先輩、えっと、ごちそうさまです。」
「うん?あっ、いいのいいの、これからはある意味、同志みたいなモノなんだから。それじゃあ、またね。」
「あっ、はい、それじゃあ...」
さようなら、そう言う前に彼女は、丁度のタイミングで扉が開いたバスに乗り込んだ。
そのとき、走り去るバスを見ながら、なんと言う風に、彼女に別れの挨拶を言うべきなのか、迷った自分がいることに気が付いた。
他人とは言わないけれど、まだ知り合いというほど、僕は彼女のことを何も知らない。
そんな関係に対して、一体どんな言葉が正解なのか、僕はこのとき、わからなかったのだ。
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