友人Yの青春論

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友人Yの青春論

 翌日、僕はいつも通り学校に行き、そして午前中のなんてことない授業を受けて、そして午後の授業前の、昼休みのことである。  その昼休み、僕は昨日のあの出来事を、僕にとっては唯一と言っていい程の友人 吉田 匠吾 (よしだ しょうご) に、何の誇張をするわけでもなく、何の装飾も施さずに、ありのままを話したのだ。  ところが... 「な~にその漫画みたいなとんでも展開、妄想?ついにそういうことを考える様になったのか?お前そういうの好きな奴だったけ?」  この仕打ちである...。  「別に好きでも嫌いでもないし、なんなら妄想じゃなくて、実際に自分に起こったことだし...」  「えー、だってさ、帰り道に普段は気にも止めないコンビニ前のガチャガチャの前でしばらく立ってたら、美人な先輩JKに話しかけられて、挙句にその人が欲しがっていたモノをたまたま当てて、そんでご飯奢って貰って、デートの約束を取り付けて...」  そこまで言い切って、彼は今まで考える様にしていた視線を僕に戻して、そして真顔で僕に言う。  「あれ、なんかお前、ムカつくわ。」  「なんでそうなるかな...っていうか僕は別に、それをその先輩に渡して立ち去っても良かったんだって、さっきから言ってるよね?理解してる?っていうか理解しろ!」  「いやいや、理解はしてるよ。けど納得はできない。なんでお前みたいな青春灰色モブ男に、こんな美味しい話が来て、俺にはなにもないのかなって。」  「言いたい放題だな...っていうかお前には彼女いるだろ?そんな奴が『俺には何もない』とかほざくなよ。」  そう、コイツは一年生にしてうちの高校のバスケ部のレギュラーであり、そしてしかも彼女持ち。  とんだ偏見かもしれないが、バスケとかサッカーとかの部活に入っていて、そんでレギュラーで、挙句に彼女が居る。  そんなハッキリ言って、高校生活の青春を存分に楽しんでいる様な、所謂『陽キャ』が、他人のそういう話を妬むなど、おこがましいにも程がある。  「お前な~、いいか?男女交際っていうのは、付き合ってからの方が大変なんだからな~」  「へー、じゃあどんな風に大変か言ってみろよ。僕はその間に次の授業の復習をしているから」  「他人の恋路の悩みをBGMにするな。」  「はいはい、次なんだたっけ?」  そう言いながら、僕は自分の食べ終わった昼ご飯の容器を片付けて、そして机の上に次の授業の教材を出す。  次の授業はたしか社会で、歴史だったはずだ。  「次はたしか社会だろ?俺歴史はよくわからん。」  「歴史だけじゃないだろ。ったく...また宿題教えてとか言うなよ。」  「えー」  「『えー』っじゃないよ。」    まぁコイツの場合、宿題のやり方を教えて欲しいと言うだけで、宿題の答えを見せろとか、写させてとかは言って来ない。     そういうところは、コイツの中である程度決めていることなんだろう。  わかりきったズルいことはしたくない  コイツと出会った時、はじめてコイツに話しかけられたとき、そんなことを言っていた事を、僕は思い出す。  その時はたしか、数学の宿題か何かのやり方を教えて欲しいとかだった気がする。  その時僕は、『写す?』という風に彼に言ったのだ。  大概の奴なら、そのまま『サンキュー』とか言って、とっとと写してどこかに行く。  けれども彼は、『そんなわかりきったズルいことはしたくない』と言ったのだ。  そんでそのまま、『ここのやり方教えてくれ』と言われて、それで結局、その日の昼休みはコイツに全て持って行かれて、代わりに 吉田 匠吾 という友人が、僕には出来たのだ。  まぁそのおかげで、今は1人だった時よりは、それやなりに楽しく、昼休みを過ごしている。  そして今その友人は、僕にニヤニヤした顔を向けながら、軽口を叩く。  「それにしても、お前から女の子の話が聞けるとは思わなかったな~」  「だからそんなじゃないって」  「照れるな照れるな。折角訪れた春なんだから、楽しむならとことん楽しめよ。」  そして「なっ!」と言って彼は僕の背中を叩いて、そしてそれと同じタイミングで学校のチャイムも鳴ったので、彼は持ってきていた自分の椅子を持ち上げて、自分の机がある所に移動した。  そしてしばらくして午後の授業が始まるとき、僕の頭の中に、彼の「楽しむならとことん楽しめよ」っという言葉がよぎった。  友人のその青春論を実行することが、果たして僕にできるのだろうか。  そんなどうでもいいことを、迂闊にも少しだけ、本気で考えてしまう。  そんな感じの今日この頃、僕はあることを思い出す。  そういえば、連絡先知らないや...
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