デート服とかあるわけない

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デート服とかあるわけない

 とある日の昼休み、吉田と喋っていると、彼女とデートをするときの服装についての話になったのだ。    正直そこまで...っというよりも全然興味がなかったので、そのときは適当に話を合わせていたのだが、どこでどうそうなったのか、なぜだが吉田は、「日曜日にデート服を買いに行こう!」と言いだしたのだ。  そして今日が、その日曜日である。  晴れ晴れとした気候という風にニュースで報道していただけあって、時刻はお昼の12時を過ぎた辺りの今、僕は額に汗を滲ませながら、待ち合わせ場所である繁華街の駅前で、友人である吉田を待っていた。  ちなみに待ち合わせの時間は、すでに1時間程過ぎている。  いつもなら休日のこの時間は、気候に関係なく、下手をすればまだ寝ている時間であるのだが、今日に限っては、友人の吉田曰く「お前も絶対に買っといた方がいい!」ということなので、仕方なく同行することになったのだ。  しかしこの場所は繁華街というだけあって、目まぐるしく人が行き来する。  休日だというのに仕事なのだろうスーツ姿のサラリーマン、部活動の帰りなのだろう学校名が大きく入ったジャージを着ている高校生、どこかに遊びにいくのだろう髪色を明るく染めた大学生などなど、様々な人達が待ち合わせ場所で立ち尽くしている僕の目の前を通り過ぎて行く。  こういう光景を見ていると、なんとなく世界にはいろんな人達が居るんだなと、小さな世界しか知らないながらもそう思う。  そしてその人ごみの中から、友人はこちらに大きく手を振りながら、屈託ない笑顔で近づいてきて、「わり~待たせた」と言ったので、それに対して、おそらく汗だくで仏頂面の僕も、言葉を返す。  「あぁ、待ったよ」  「えー、そこは『いや、今来たところだよ』っじゃねぇの?」  「じゃねぇんだよ、ちゃんとしっかりと待ったわ。こんなに暑いところでずっと待たせやがって。そもそも11時という時間とこの場所を指定したのはお前だろうが。」  「だから悪かったって~ちょっと野暮用が入ってさ~」  「野暮用?」  「あぁ、まぁちょっとな...」  そのときの吉田の表情が、変わらず笑っているのに、何故か少しだけ曇りが掛かったように見えたので、僕はその野暮用というモノを、無理に彼に聞こうとはしなかった。  聞くのは野暮だと思ったのだ。  「...まぁいいや、とりあえずお店に入ろう」  そう僕が言うと吉田は「そうだな」と言って、そして二人してとりあえず、今日の目的地であるアパレルショップに、向かったのだ。  「あのさ...さすがに少し休憩しない...?」  時計を見ると、あの正午からすでに3時間は経過していた。  一般的な男子高校生が、洋服選びをするのにどのくらいの時間を使うのかは正直知らないが、普段そういったことを全然していない僕にとっては、3時間休まず服を選ぶというのは、ハッキリ言って異常だった。  僕のその言葉を聞いて、先を歩く吉田は振り返る。  「えっ?あぁ、そうだな。じゃあ、あそこに入るか。」  そう言いながら、吉田は地元でもよく見かけるファーストフード店を指さしたので、それを見た僕は無言で頷き、僕達はそのままそのお店に入って行った。  「あ~疲れた...」  店内で適当に注文したあと、席についての一言目がこれである。  そしてそれを聞いて、吉田は笑いながら言ってくる。  「お前なぁ、体力無さすぎ。」  「うるさい、そもそもこんなに歩き回るとは聞いてなかった。」  そう、もともと目的地としていたアパレル店は1ヶ所だけで、僕も吉田もそこで買い物を済ましたのだが、吉田はそれでは満足できず、その後は近くにあるお店を転々として歩き回った。  それでいて最終的に買ったのは、最初に僕と買ったモノだけなのだから、一体さっきまでのアレはなんだったのだろうと思ってしまう。  「いやさ、他の所はどんなのが置いてるのかとか、やっぱ気になるじゃん?」  そう言いながらストローを咥える友人に、僕は一言反発する。  「知らんそんなの、初志貫徹を忘れるな。」  「えっーでもほら、臨機応変って大事だろ?」  「優柔不断の間違いだろ。」  そう言いながら、僕も自分のドリンクを飲もうと、ストローを咥えた。  ストローから吸い上げられるジュースは、その甘さでと匂いで、疲れた身体を癒してくれるようだった。  「そういえばさぁ、お前あのあとなんか進展あったわけ?」  「はっ?」  「前に話してたじゃん、先輩の女の子。あの時以来その話聞いてなかったな~って思って。」  「あぁ、別にこれといったことはなにもないよ。電話番号交換して、携帯で話したくらいで...ちょくちょく連絡はとってるけど、直接会ったりはしていないよ。」  そう言いながら、僕はあの時の、はじめて彼女から来た電話を思い出す。  あれ以来、何度か携帯で話すことはあっても、それはどれも他愛ない話ばかりで、それに学年が違からなんだろうけど、学校で会うこともないのだ。  「いやいや、それってかなりの進展じゃん!」  友人が食い気味に否定してくる。  「そうなの?」  「そうだろ!」  「なんで?」  「なんでって...あのなぁ、何とも思ってない様な奴に、わざわざ自分の番号教えたり、電話したりはしないだろ。」  まるで当然のことだろうという風に吉田は言うが、僕にはそれがいまいちピンと来なくて、疑問符を付けてしまう。  「そうかな...?」  「いや、そうだろ。」  そう言いながら、吉田はポテトに手を着ける。  「それなら今度のデートは大丈夫そうだな~デート服も買ったことだし」  「デート服って...」  そう言いながら、僕は自分の横に置いてある、さっき買った紙袋を見た。  しかし買ったのはオーソドックスなパーカーで、これが本当にデート服でいいのか、僕には自信がなかった。  けれども、そもそもデート服なんてあるわけがない僕が、初めて誰かを意識して服を買ったことは...  それだけは間違いがないことだと、そう思って、僕もポテトに手を着けた。            
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