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魔王、身体を手に入れます
オホン 本日は晴天なり・・・
よし、大丈夫だな。
視界は良好だし、どうやら上手く未来に到着できたようだ。
しかしながら、今の僕には少しばかり問題がある。
身体がないのだ!
うーん。死体とかあれば良いんだがなぁ。
何とも難しい問題だ。
流石に霊体のまま過ごす訳にはいかないしなぁ。
とりあえず僕は、身体を求めて行動することにした。
・・・・・・ない。
ないのだ。
簡単に身体が見つからない!
適当にそこら辺の人間に憑依出来たら楽なのだが、そういう訳にはいかない。
憑依するには、いくつかの条件を満たす必要がある。
1.身体の持ち主の意思で動かすことが不可能な身体であること。
2.身体の持ち主が憑依されることに了承していること。
この二つだ。
二つ目については、魔力で反抗を押さえつけるという方法も存在するが・・・一つ目のことを考えると死体が適任である。
『ふふふっお困りのようだね〜魔王様♡』
突如として、鈴のような美しい声が聞こえた。
振り返り、驚いた。
『あらあら? 忘れちゃったのかな〜あんなに助けてあげたのに・・・・・・』
そこに立っていたのは、黒髪黒目の魔性の女で会った。
『あっ・・・・・・』
驚きのあまり声が出ない。
『むーもうちょっと反応して欲しいけど・・・・・・その表情を見るに、覚えてくれてはいるようだねぇ。でも〜そろそろ何か言ってくれてもいいんじゃない?』
『・・・・・・あぁ、すまない。少し驚いただけだ。』
忘れるわけが無い。彼女の声、それはあの魔王城で聞いた謎の声と同じものだった。
『・・・・・・それで、君はどうして僕を助けてくれたんだい? その姿を見るからに、僕の味方をするような奴では無さそうだが・・・』
彼女は辺りに溶け込むような、決して派手でない美貌の持ち主であった。
それでも彼女には、普通の人間にはありえないものを持っていた。
―――背中から生える二対の羽。
それが彼女が天界の住人であることを示す何よりの証拠だった。
そして、彼女は僕の質問に少し考える素振りを見せたあと、指を口元に当てながらウインクをして・・・・・・
『う〜ん? 面白そうだから、かな?』
『んなっ』
面食らってしまった。
『でも、貴殿は天界の住人だろ? 簡単にそんなことして大丈夫なのですか?』
『あ! それは大丈夫だよ〜だって私、天界で一番偉いですから〜。』
『んなっ』
再び面食らってしまった。
まさか彼女が天界のトップ、女神とは・・・・・・
『それで・・・・・・どうして僕の前に姿を表されたのですか?』
『あれ? 私の正体を知っても怯えないんだね〜私、君より余裕で強いよ〜』
『ッ・・・・・・』
全身が仰け反り、本能的に後ろに下がりたくなる。
彼女がその力を解放したのだ。
実力が違いすぎる・・・・・・
『ハハッ冗談だよ〜。自分から呼んでおいて始末するなんて無駄なことしないよ〜』
一瞬で威圧感が嘘のように消え去り、能天気な声が聞こえた。
それでも、話の内容がマトモに入ってこない
まさに生きた心地がしないと言うやつだ。
『それで、貴殿の名前は何と?』
『あれ? 言ってなかったね〜私はサヤ〜』
『サヤ殿か・・・・・・以後、お見知り置きを。』
『うーんなんだかなぁ・・・・・・。そうだ! 私のことサヤって呼んででいいよ! あと敬語も無しでいいから! ヴァイス君!』
ぬ・・・・・・先程まで魔王様だったのに、いつの間にかヴァイス君になっている。
『あっそ〜だ! 本題なんだけど〜! ヴァイス君って今、身体無いよね〜。こっちから呼んどいてそれは無いかなーって思って〜身体用意してあげたよ〜!』
『・・・・・・! それは本当か!』
僕が食いついた次の瞬間。
目の前には、たくさんの身体が用意されていた。
『この中から好きに選んでいいよ!』
『では、ありがたく・・・・・・』
そう言って用意された身体を物色し始める。
―――数分後
・・・うーん
僕は今、とても悩んでいる。
端的に言うと身体は見つかった。
しかも『読心』というなかなか優秀なスキル持ちだ。
これだけならとても優良物件なのだが悲しいかな、現実はそう甘くない。
この身体の性別・・・女なのだ。
僕は男であったため、今更、性別を変更するのには抵抗があった。
というか・・・・・・根本的な問題があるのだ。
サヤが用意した身体・・・・・・女しかいないのだ。
絶対に謀られた!
・・・・・・長い考慮の末、僕は覚悟を決めた。
僕はこの身体に決める!
『ヴァイスくーん! 身体決めた〜?』
タイミングよく、サヤが声をかけてくる。
『あぁ、これにするよ。』
『ほうほう、その子を選んだんだね〜。女の子だけど。』
『仕方ないだろ、全員女だったんだから。』
『ありりゃバレちゃった☆』
サヤは舌を出しながら、ウインクした。
内心イラッとしたがそれを表には出さない。
『んじゃ魔法かけるから〜ホントにその子でいいんだね〜』
僕は無言で頷く。
すぐにサヤの周囲に魔力が立ち込め、それが僕と彼女をかこう。
身体憑依の魔法だ。
身体に残り、長い時間をかけて輪廻の輪へと還る魂が反抗するがそれすらも魔力で黙らせる。
・・・成功だ。
改めて僕は魔法で自分の新しい姿を確認する。
首の下ほどまで伸びた黒髪と青色の瞳を持った幼さを残しながらも美しい少女が映る。
『おぉー! なかなか美少女だね〜』
『ありがとう、サヤ! では、僕はこれで・・・・・・』
そう言って立ち去ろうとして・・・・・・
あることを思い出した。
『そういえば・・・・・・どうやって過去の世界に戻ればいいんだ?』
身体を手に入れることができたが過去の世界に戻る方法が分からなければ結局、復讐することは出来ない。
振り向くと彼女は胸を張り、偉そうにふんぞり返っていた。
『お! いい所に気がついたねぇ。』
彼女はニヤニヤしながら腰ほどまである長い黒髪をいじる。
・・・・・・彼女が口を開く気配はない。
『・・・・・・それで、どうすればいいんだ?』
痺れを切らした僕はサヤに問う。
『ど〜しよっかなぁ。 教えてあげようかなぁ? 』
『いいから教えろ。』
のらりくらりとする彼女に苛立ちを覚え、気がついたら胸ぐらを掴んでいた。
『はぁ・・・・・・』
彼女が息を吐く。
その表情からは何を考えているのか上手く読み取ることができない。
呆れているのだろうか? あるいは・・・・・・
冷静になった僕はすぐさま胸ぐらから手を離した。
そして、先程の自分の行動を後悔する。
彼女は、今の僕より圧倒的に強い。 そんな彼女に本気を出されてしまうとすぐに倒されてしまうだろう。
もし彼女が怒っていたとしたら・・・・・・僕はここで処分される可能性だって十二分に有り得るのだ。
ゴクリ。 僕は固唾を飲んで先程よりも顔を赤く染めたサヤを見つめるのであった。
そして・・・・・・彼女が口を開く。
『・・・・・・はぁ。 ヴァイスくんったら大胆!』
その口から漏れたのは、ひどく色っぽい吐息であった。
『は?』
唐突すぎてイマイチ理解できない。
『私、今までそんなにグイグイ来られたこと無かったんだよねぇ。 こうやってされるのも悪くない!』
彼女は胸ぐらを掴まれる、という行為を気に入っていたのだ。
よく分からないが、怒っていないのなら助かった。
『よし! 特別に教えてあげようか。過去に戻る方法・・・・・・それはねぇ。』
えらくご満悦な顔でサヤが胸を張って宣言する。
そんなに良かったのだろうか?
僕は無言でその方法を逃さないよう聞き耳を立てる。
『王都マグノリアの現国王様の暗殺だよ!』
―――国王の暗殺?
『はぁ。 どうしてそれで未来に帰れるんだ?』
二つの事象に関連性が見られないため、その理由を問い返す。
『え〜っとねぇ。暗殺すること自体はなんの意味もないんだ! でも、王都マグノリアの王城にある図書館には過去に戻る方法が記されているらしくてねぇ。 それを見れる人が王様の血縁者か、王様を殺した人らしいんだ。 だから、だよ!』
『なるほど分かった。 あと一つ質問だ。 僕を過去に戻すことにおいて君にどんな利点があるんだ?』
納得はしたが、さらなる疑問が生まれる。
僕が王を殺したところでなんの利点が彼女にあるのだろうか。
さすがに、面白そうだから、という理由ではないだろう。
『それが私の為にもなるから、と言っても納得しないよね。うーん・・・あんまり言えないんだけど、このままじゃこの世界は滅ぶの。 だから何かを変える必要がある。 私はこの世界を残したいからね。 一応言っとくけど、君に拒否権はないよ。』
『だったら僕じゃなくても・・・・・・』
素直に思った言葉を口に出した。
『え〜、君が適任なんだけどなぁ〜。』
(僕が適任? どういうことだ。)
その時、サヤが意地悪くニヤッと笑い、言った。
『だって・・・その王様って君と戦った勇者の末裔だったりするんだよねぇ。』
『なんだって? 』
『それに私もそのうち手伝いにいってあげるよ!』
勇者の末裔・・・。
そいつを殺せば、憎き奴らに復讐する機会すらも得ることができる・・・・・・。
これでもかという好待遇に僕は内心ほくそ笑んだ。
『分かった。やろう!』
『いい返事だ! では、ヴァイス君! 君に任務を与える! 王城に侵入して国王を暗殺しろ!』
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