一難去ってまた一難②

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一難去ってまた一難②

『さぁ、これで条件は対等だ。』 地に伏すドラゴンは、自分に何が起きたか理解できていないようだった。 『今なら殺しはしない、だから退け!・・・・・・ッチ!』 ドラゴンに『魔眼解放』の『絶対服従』を使おうとしたのだが、効かなかった。 ドラゴンが僕より格上の存在ということなのだ。 『どうするか・・・・・・おっと!』 翼を失い、いい加減諦めたかと思ったのだが・・・・・・ドラゴンは今まで以上に鋭い攻撃を仕掛けてくる。 ―――速い! ギュオっと空気を薙ぐ音が耳元で聞こえる。 『思った以上に速いな! ・・・・・・クソっ!』 僕は、ドラゴンの目を見て察した。 今まで獲物としてしか見ていなかった僕を敵として見ていることに・・・・・・。 爪牙を一撃、二撃と回避してく・・・・・・・・・。 避けながら翼に穴を開けるために投擲した災厄(ディザスター)を回収しようと試みたが・・・・・・ドラゴンの吐いた炎がそれを阻む。 どうやら狙いを悟られているようだ。 仕方ないので、魔法を使って災厄(ディザスター)を回収する。 正直、僕にも余裕はあまりない。 魔獣という、魔族に近しい存在だったから殺したくは無かったのだが・・・・・・。 ・・・・・・そう思案している間にも鋭い攻撃が放たれ続ける。 先程からその攻撃が肌を掠めるようになってきた。 ―――相手も本気だ。 このままだとそう遠くない未来にやられてしまうだろう。 相手が僕の目を見ていない以上、『絶対服従』も使えない。 (まずい) 再び、ドラゴンは僕の周りに炎を吐く。 またあの技を出すつもりだろう。 (いや・・・・・・大丈夫か。) 落ち着いて考えてみるとドラゴンは飛べない、突撃してくるのならば、足音で来る場所が分かるのだ。 しかし・・・ドラゴンは全く予想していなかった行動をとった。 何かが、上から落ちてくる―――そんな気がした。 僕は、自分の感を信じて魔法障壁を展開した。 (グッ・・・あぁ!) 瞬間、上から膨大な質量を加えられ楽々と障壁が破られる。 吹き飛ばされながら僕は状況を確認する。 先程まで僕がいた場所にドラゴンが立っている。 (ドラゴンは飛べないはず・・・・・・まさか! ・・・状況的にそうとしか考えられない。) ドラゴンがしたのは飛翔ではなく純粋な跳躍。 そのまま、僕を押し潰したのだ。 ―――傷はかなり深い。頭がクラクラする。 それでも僕は、自分の不利を悟られないようにドラゴンに向かう。 『強化(ブースト)!』 底をつきかけている魔力で身体強化魔法を唱え、剣を構える。 『はぁぁぁ! せい!』 そして、大きく1歩を踏み込む。 ―――スパッ! 剣が、ドラゴンの身体を切り裂く。 ―――gyyyaaaaaa! 激昂したドラゴンが炎を吹き出す――― 『遅い!』 影移動を使用、ドラゴンの背後をとる。 悲鳴をあげる体をも意思で黙らせ、対象を見失い、呆然としているドラゴンに剣を突き立てる。 ―――gyyyaaaaaa! 『―――グッ!』 本当にトドメを刺す気なのか、ドラゴンが今までとは比べ物にならない程の力を発揮する。 (ハァハァ・・・) 対して僕の体はもう限界である。 もはや、剣を地面に突き刺し膝をつかないように立っているのが精一杯で、剣を振るのは不可能だ。 そう、()()()()()()。 ―――grrrrrrrrr! grrrrrrrrr! 大きな咆哮をしたドラゴンの身が、炎に包まれる。 『切り札を切ったか・・・。 お前も死にたくなかったんだな。』 誰に言う訳でもなく呟く。 その間にもドラゴンは、炎を纏った突進を敢行する。 滅ぼすべき対象を逃がさないように、その双眸で対象を捉えながら・・・。 ―――それが最期の欠片(ピース)だった。 『死ね。』 ―――それが、ドラゴンの聞いた、最期の音声となる。 上位者の命令を受け、ドラゴンは緩やかに崩壊を始める。 ―――gyyyaaaaaa! ドラゴンは必死に抵抗しようと、地面に爪を食い込ませて歯を食いしばるが、死神の鎌は無情にも音もなくその首を刈り取っていった。 ―――――――――――――――――――― 戦いの後に残るのは、常に静寂のみ・・・・・・。 なかなかに紙一重な戦いだった。 『早く・・・戻らないと。』 戦いで受けた傷はかなり深い。 早く戻って手当てを受けた方が良いだろう。 『やはり・・・・・・かなり弱体化しているな。』 戦っている間にかなり離れてしまった魔道車に向かいながら今回の戦いを振り返ってみる。 『あんな小細工をしないと、絶対服従を使えないとは・・・・・・。』 あのドラゴンは今の僕より格上の相手だった。 だから僕は、ドラゴンの防御に対する意識が最も低くなる瞬間。 つまり、攻撃する瞬間に練りに練った魔力での『絶対服従』を叩き込む、そんな裏技でドラゴンを倒したのだ。 『そもそも、あそこで剣を投擲したのが良くなかったのか?』 1人でブツブツと呟く。 『うーん。でも・・・・・・』 そんな反省会をしている間に、魔道車の前に到着した。 ―――ここからは元魔王ヴァイスでは無く、セリカの時間だ。 ドアを開けて、中で待っている人物に呼びかけた。 『ただいま戻りました! エイリさん!』
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