一難去ってまた一難③

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一難去ってまた一難③

「次の者、前に来い。」 野太い衛兵の声がして、列が前え動く。 ここまで来ると、大分はっきり門が見えるようになってきた。 ここは関門、勇者の末裔がいるという王都マグノリアへの入り口だ。 「あと少しで入れそうですね〜。」 僕は隣の席の運転手、膨らんだ腹を持つ悪面の男。 エイリさんに何気なく声をかけた。 「うっ、うんそうだね。 セリカ・・・ちゃん。」 その返答は心なしかぎこちない。 ―――まぁ仕方ないな。 こうなっているのには理由がある。 ―――時は僕がドラゴンを討伐して魔道車に帰還した時に遡る。 「ただいま戻りました! エイリさん!」 僕は、元気にドアを開けた。 「セリカ・・・・・・ちゃん?」 中にいたエイリさんは、怯えたような顔でこちらを振り向いて・・・・・・ 「どうしたんだい! そのケガ!」 血相を変えて叫んだ。 「えーっと・・・・・・ドラゴンに・・・きゃ!」 ・・・変な声が出てしまった。 エイリさんに急に手を引かれたのだ。 「ほら、早く手当てをしないと・・・・・・。」 そう言ってエイリさんは傷口に消毒をペタペタと付け出した。 正直、そんなに上手い手当てではないが・・・・・・。 なんだか心が温まる気がした。 「これでよし!」 出血が止まり、傷口に包帯を巻いて手当ては終了した。 「ありがとうございます! 助かりました。」 素直にお礼を述べた。 これで終わってくれれば楽なのだが・・・・・・ 「それで・・・その、ドラゴンは? 倒したのかい?」 うーん。 やはり聞かれたか・・・・・・仕方ない。 「えーっと・・・倒しました。」 顔色を伺いながら述べる。 見るからにエイリさんの顔が青くなっていくのが分かった。 「ドラゴンを・・・・・・1人で、か。」 遠い目をして、エイリさんが呟いた。 「その・・・・・・あまり良くないことでしたか?」 恐る恐る聞いてみた。 「ドラゴンは本来、国家ぐるみで討伐するような存在だよ。それを1人で倒すとは・・・。」 何やら、ドラゴンはかなり強い存在だったらしい。 まぁ事実かなり強かったが。 「それにその剣・・・・・・セリカちゃんの正体って・・・。」 エイリさんがドラゴンの血に染った災厄(ディザスター)を見つめる。 コレは・・・・・・バレてしまったな。 「そうです。 私が・・・・・・もういいか。 僕が古の魔王ヴァイスだ。」 演技もやめて、自分から正体を明かした。 もはや、エイリさんの表情は絶望一色に染まっている。 「ま、ま・・・魔王様。 こ、これまでの無礼な振る舞い、まことに失礼しました!」 エイリさんはいきなり土下座をした。 その勢いは、これまで多くの謝罪を受けてきた僕といえど、驚く程であった。 ―――余談だがこの状況、傍から見ると大男が少女にひれ伏しているおかしな状況だろう。 「え・・・あの。」 「私めの財産は、全て捧げますゆえ、何卒! 何卒、命だけは!」 エイリさんは完全に萎縮している。 こちらの話を聞く気配がない。 「面を上げよ・・・そして、『落ち着け』。」 僕は、『絶対服従』を使ってエイリさんを落ち着かせる。 魔力が欠乏して、立ちくらみがする・・・・・・。 「安心しろ、僕は君の命を奪うつもりは無い。」 その言葉を聞いて、エイリさんの顔は明るくなる。 「そして、僕は君を尊敬している。 誰にも分け隔てなく接する君の人柄を高く評価している。 そこで提案だ。 僕の目的に協力してくれないかい?」 「目的・・・・・・。」 エイリさんは急にこちらをまっすぐと見つめた。 ―――これは、商売人の目だ。 エイリさんは、魔王である僕をビジネス相手と考えているのだ。 その根性・・・・・・気に入った。 「その目的とは?」 エイリさんが問う。 僕は、ニッコリとして答えた。 「これから向かう王都マグノリアの国王。 勇者の末裔の暗殺だ。」 エイリさんは、目をぱちくりさせてこちらを見た。 ここまでするとは、思っていなかったのだろう。 「どうして・・・・・・どうしてそのようなことを?」 「あーそれはだな。僕の復讐、が主な理由なんだが。一応大義名分もある。」 そうして僕は、エイリさんにサヤから受けた天啓について話した。 「なるほど・・・。そういう事なら協力しましょう。私めの持てる力、全て捧げますぞ、魔王様。」 話を終えた途端、エイリさんは僕に協力すると言い出した。 コレは少し驚いた。 「こちらから誘っといてなんだが・・・・・・いいのか? 孤児とはいえ、君の故郷はマグノリアだろ? その国王を暗殺するんだぞ?」 「問題ありません。むしろこれは、マグノリアの為になるのです。 今の国王は愚王ゆえ、このままでは国が滅びます。」 キッパリとエイリさんは言った。 なるほど・・・愚王なのか。 コレは、サヤが僕に天啓を言い渡した理由が何となく分かった気がした。 「分かった。 これからよろしく頼む。 そして、コレからの僕はセリカだ。 そして君はエイリさん。 先程までの関係に戻る。 だから、あまり私が魔王だってことを意識してはいけませんよ、エイリさん。」 「分かりまし・・・・・・分かった。 セリカちゃん。」 ・・・・・・と、このような成り行きでエイリさんと僕は協力関係になったのだ。 まぁ正体を明かしてから、何となくエイリさんの対応がぎこちなくなった気がするが。時間の問題だと割り切った。 ―――――――――――――――――――― 「次の者、前に来い。」 衛兵が再び声をかける。 僕たちの番だ。 「要件は? 」 「取り引きからの帰りです。」 「許可証は?」 「コチラに。」 「よし、通れ。」 あっさりと通された。 門が開き、そこに入る。 「それじゃあセリカちゃん。 また後で。」 そう言ってエイリさんは、魔道車をどこかへ持っていった。 僕は、眼前にある大きな城を見据えて小さく呟いた。 「勇者め、首を洗って待っていろ。」 その日、世界の運命を動かす小さな暴風がマグノリアの地に足を踏み入れたのであった。
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