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僕は、まだ見ぬ勇者暗殺のための行動を開始する。
「まずは知識を深めないとな。」
そう呟いて歩き出した。
目指すは図書館。
エイリさんが言うには、この先に大きな図書館があるらしい。
この国、ひいてはこの世界について、僕はもっと知る必要があるのだ。
「ここを右に曲がって・・・・・・っと。」
この路地裏を通れば、中央通りに出ることができる。
そう思っていたのだが・・・・・・
「・・・・・・!」
後ろから感じる、こちらへの視線に気がついた。
ここからでもひしひしと感じるその魔力・・・。
その量は僕よりもはるかに多かった。
(コレは・・・・・・あのドラゴンより大きいかもしれない。)
動揺を隠しつつ、僕は路地裏の奥、行き止まりに向かった。
そして・・・・・・
「何か用ですか? お兄さん?」
こちらから声をかけた。
長い沈黙の後・・・・・・
「バレていたのか・・・・・・。おまえ、やるな。」
何やら胡散臭い見た目の青年が出てきた。
「貴方・・・・・・私にここで何をするつもりですか?」
そう問いかけるが、出る答えはある程度予想ができる。
―――犯罪だ。
「ん? 何だったっけ?」
そう青年は答えた。
「は?」
思わぬ答えに間の抜けた声が出る。
「あーれ? 思い出せねぇな・・・・・・」
再び、僕に答える。
「そう言って・・・・・・油断させるつもりですね?」
僕は、剣を抜き構えた。
こんな不審者は切り捨てるべきと判断したためだ。
「おいおい・・・・・・あっそーだ思い出した。 その剣、しまっとけって言おうと思ったんだった。 この国でそんな物騒なもん持ち歩いてたら、騎士達にいちゃもんつけられるぞ・・・なんてったって・・・・・・」
―――あいつらめんどくせぇからなぁ。
そう言った気がしたが関係ない。
僕は、剣を抜き打ち放った。
しかし現実は、考えもしなかった方向に動いた。
「危ねぇって・・・・・・。 おい、ここでやめとこうぜ。 お前の実力じゃあ俺も手加減できねぇからさぁ。 な?」
「・・・・・・ッ!」
僕の目の前には、災厄(ディザスター)の一撃を易々と素手で受け止め、眠そうな目のまま立ち尽くしている青年の姿であった。
―――かなわない!
そう判断した。
「失礼しました。 長旅で少々気が立っていたようです。」
剣を収めながら、謝罪の言葉を述べる。
無論、僕にとって危険な男を放っておくはずが無く、虎視眈々と『絶対服従』発動の機会を狙っている。
「ん。 まぁいいや。 次から人の話をちゃんと聞くようにしろよ。 」
そう言って青年は立ち去ろうとした。
―――が、すぐに振り向いて。
「そーだった。 これ、やるよ。」
青年は、何処からか取り出した鞘を僕に向かって投げた。
それを、掴み受け取る。
「コレは・・・?」
ただの鞘のように見えるが、何やら魔力で刻印がされている。
「それに魔力をこめ続けていれば、その鞘に入っているものの存在が隠蔽される・・・・・・ふぁぁぁ眠い。」
―――じゃあな。
そう言い残して、青年は去っていく。
「ちょ・・・・・・ちょっと待て!」
声をかけるが青年が振り向くことは無い。
『絶対服従』発動の魔力をこめ続けて、赤くなった瞳が哀愁を漂わせていた・・・・・・
――――――――――――――――――――
僕は、不思議な青年から貰った鞘に災厄(ディザスター)を入れ、魔力を込めた。
―――消えている?
見た目にはよく分からなかったが、刻印から何やら術式が発動しているようなので、大丈夫だろう。
僕は不思議な青年について考えながら、中央通りに向かうのであった。
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