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署についてからすぐに取調べ室に案内される。
「……今日の午前2時ごろの話を聞かせて欲しい」
山田さんは俺の目の前に温かい緑茶の入った湯呑みを置いてそう聞いた。俺は改まった雰囲気に緊張しつつも口を開いた。
「午前2時かどうだったかは覚えていませんが、刑事さんから電話がかかってくるまでずっと、部活のメンバーでトランプをしてました。それまでの間、一人にもなっていません。親友の佐々木瑛太とずっといました。疑うのならそいつから裏取りをしてください。……それよりも早く、早く犯人のことを教えてくださいよ、山田さん!」
久しぶりに大声をあげた俺は息切れをしていた。
「……あぁ、そうだな」山田さんも自分用の湯呑みを机の上に置き、口を開いた。
「犯人の話なんだがな、まだわかっていないんだ。」
「……は?」
思ったことがつい口から出た俺はまだまだ子供なのだろうか。
「何しろ、犯人は連続放火魔。こちらとしても早く捕まえたいのが本音なんだが……。いかんせん情報が少なくてねぇ。君を取調べ室に呼んだのは実はアリバイを聞くためでもなんでもない。ただ君に『おおいぬ座事件』の犯人。『シリウス』と何かしらで関わりがあると睨んで呼んだんだ。」
今度は、山田さんが言葉を捲し立てる。その目からは刑事特有の鋭さがうかがえた。
「……なんで、犯人と俺に関係があるって思うんです?」
俺の先程の威勢はどこへやら。山田さんの凄みにやられ目を逸らし、弱々しく聞いた。
「……なんでだっていいだろう?で、そこんとこどうなんだよ?」
山田さんははぐらかす。
「……少なくともそんな怪しいやつ俺の周りにはいません。みんないい人ばかりです」
「そうか」
「あの、もういいですか? 俺、喪中でやることいっぱいなんで……」
もちろん、今日の寝床だとか燃えてしまった明日着ていく予定の制服だとかそんなことは視野に入っていない。ただ、もう色んな情報で頭がいっぱいいっぱいで早く帰りたかったのだ。
「それもそうだな。まぁ、何かわかったらこの番号で電話する。逆に何か思い出したら、よろしくな、芹川くん」
「何か思い出したら」を強調するあたり俺が何かしたと思っている。冷や汗が首筋を伝うのを感じた。どう考えても、この人がまともな情報をくれることはないだろうな。
───俺は俺で犯人探しをしよう。
そう思った瞬間だった。少なくとも、俺に一つわかることがある。
───俺は犯人じゃない。
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