アツコの初恋

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恋が苦しくて切ないものだなんて全然知らなかった。 ホームルームが終わるとクラスメイト達がパラパラと教室から出ていく。 中学に通うのもあと一年もないが、中高一貫校なので受験の心配はいらない。 部活も入らず、特段趣味と言える趣味もなく、私の毎日はただただ静かに過ぎていた。 「橋本さん、じゃあねー」  隣の席の子がにこっと笑って挨拶してくれた。 「ま、またね……」  せっかく声をかけてくれたのに、緊張してどもってしまう。 自慢じゃないけど話すのはあんまり得意じゃない。 友達と呼べる人もあんまりいない。あんまりっていうか全然いない。 ほんとはみんなと気軽に話したいんだけど、言葉が一言か、多くても二言ぐらいしか出てこない。 (あーあ……) 背は百五十センチと小柄、カラーリングは校則で禁止されているから重たい黒髪にトレードマークの黒縁眼鏡をかけている。 それにこの内気な性格。 毎日一日が終わると自分で自分にがっかりしてしまう。    下を向いてとぼとぼと一人で駅までの道を歩いた。 暗くなった気持ちを立て直すため地元の駅に着くと駅前のコンビニに入りイチゴミルクを買った。時々ここで甘い飲み物を買ってイートインコーナーで飲むのが唯一の楽しみだ。ここなら一人になれるしなんだか安心する。 (はー。美味しい) イチゴミルクをごくごくと飲むと気持ちがちょっと落ち着いた。 飲み終わったら図書館に行こうかな。子供の頃から暇になると中央図書館に行くことにしている。広くてきれいで席の数もたっぷりあるし、本の数も多くて退屈しない。何より静かでいることがよいことだし、喋らなくていいからか落ち着く。
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