第九話 おじさんにゾッコンなんです

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 美夜はいつもより綺麗な格好をして家を出た。  今日は以前、辰美と食事していた時に声を掛けてきた若社長が経営する創作料理屋での仕事が入っている。  現場に着けばまた着替えるが、それでもラフな格好をして行くわけにはいかない。  さほど敷居の高い店ではないが、かといってなんでもオーケーなわけではない。最低限のマナーを守る必要はある。  まだ経験の少ない美夜には大変ありがたい話だった。普通、こんな仕事はコネクションがなければ回してもらえない。なんの繋がりもなかったフリーの美夜が仕事をもらえることは奇跡的だった。  給料は多いのか少ないのか分からないが、CDを買ってもらえるか分からないストリートよりは確実にお金が入るし、アイドル路線で売りたくない美夜にはピッタリな仕事だ。  ディナーの時間帯、夜の六時から閉店一時間前までが拘束時間だ。  かなり長丁場だが休憩を挟みながら演奏できるし、穏やかな曲調のものが多いためそれほど疲れることはない。ただ、初めての仕事で多少緊張した。  客のほとんどは歳上に見えた。それこそ、辰美ぐらいの歳の男性もいる。美弥は演奏しながらついチラチラと見てしまった。  この店は辰美に似合いそうだ。呼べば来てくれるかもしれない。  二人で一緒に食事できないのは残念だが、辰美に演奏を聞いてもらえるのは嬉しい。  ────でも、こんなところに辰美さんと来たら、やっぱり変に思われるのかな。  昼間、詩音に言われたことが引っかかっていた。気にしないと思ってもやっぱり気にしてしまう。  ────やめやめ、こんなこと考えたって歳の差が埋まるわけじゃないんだから。  思考を切り替え、演奏に集中した。  けれどやっぱり辰美に似た客に視線が入って、またその同伴者に目線がいってしまう。それがどれも大人の女性だったものだから、また落ち込んだ。
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