王道展開はいつも突然に

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「羽月ー、食堂行くぞ」 「はーいちょっと待って」  ノートから顔を動かさずに答えると、既に持ち主はお昼を食べに消えたらしい目の前の席が、ガタリと音を立てて埋まった。視界の端に此方を向く長い足を捉える。 「まぁだ板書写してんのか?相変わらず遅いな」 「前原、邪魔。黒板見えない」 「はいはい」  肩を(すく)めて少し横にずれたこの男は、2年S組で俺と同じ風紀の前原(まえはら)快斗(かいと)。母親がキ◯ド様大好き過ぎて息子に名付けたらしい。お金持ちも漫画とか読むんだね。  ちなみにこいつも顔が良い。さらりとした黒髪に切れ長の黒い瞳。チワワ達からクール王子なんて呼ばれちゃってる。去年なんて襲われそうだったところを助けたチワワ、声掛けた俺のこと思いっきり押し退けてちょっと離れたとこに居た前原に走り寄って「歩けないので支えてくれませんか⋯⋯?」ってしなだれかかってさぁ。お前今しっかり走ってたよな?しかもその後ろで尻餅ついてる俺、完全に空気だったし。⋯⋯クール王子×計算高いチワワはちょっと萌えたけども。どいつもこいつも整った顔しやがって!王道転校生が来たら覚えてろよ(?)  ⋯⋯という半ば恨みのこもった目で前原を睨みつけると、視線がかちりと合った。途端上がる口角。あ、こいつロクなこと考えてねぇ。 「どうした羽月、俺の顔に見惚れてたって板書は進まないよ」  〜〜〜っこのクソナルシスト野郎!!!  ガン無視して再び目で黒板とノートの往復を始めれば、手持ち無沙汰になったのか左手が俺の右耳に伸びてきた。やめい。 「なぁ、お前なんで2年になってからずっとマスクしてんの?」  紐に指を引っ掛け、(おもむろ)に耳の裏側をなぞる様にしてマスクを外される。入学式の終わった後色々考えた俺は、マスクで表情を隠すことにしたのだ。既に出回ってるものはどうしようもないのかもしれないけれど、人の噂も七十五日と言うし、マスクが辛くなる夏前には収まっててくれないかな、なんて期待を込めて。 「や、ちょっと風邪気味でさ」 「ダウト。1週間も風邪引いてる気かお前は」 「うぐ」 「入学式ん時なんかあっただろ」 「⋯⋯黙秘で」  エスパーかよ。思わずギクリと肩が強張ったが、前原は疑わしげな目をしつつもそれ以上の詮索はしてこない。お前のクラスの奴らに不名誉極まりない噂をされているかもしれないなんて言えるかよ。こいつがもしその噂を知っててわざと俺から隠してるんなら、尚更言わない方がいいと思う。 「終わった。食堂行こ」  教科書やノートを片付け始めた俺を見つめる前原は、前の椅子から動こうとしない。気が付いたら教室には俺達2人しか残っていなかった。 「⋯⋯お前の、」
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