寝覚めはいつも突然に

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 委員長に扉ドンされた時に床に落としたブレザー。その上に広がるネクタイ。普段なら第1まできっちり閉めているワイシャツのボタンは、第2まで開いたまま。スラックスに申し訳程度に通されたベルトはもはや機能を果たしておらず、引っ張ったらすぐに抜けるだろう。⋯⋯確かにこれは誤解するわ。もし委員長とこんな格好のチワワが壁際で密着している場面に第三者として遭遇したら俺は「どうぞごゆっくり!!!」って叫んで一回離れた後こっそり戻って覗き見します。  また妄想の世界へ旅立とうとしたところで、先程の委員長の言葉を思い出し真顔になった。貞操は大事にしたいです。無理矢理、ダメ、ゼッタイ。 「あの、これはですね、起きて5分で寮を出るためには仕方なかったといいますか、時間のための尊い犠牲といいますか⋯⋯」  弁解を並べ立てながら急いでベルトを締め、シャツのボタンを留めていく。ネクタイを拾おうとしゃがみ込んだところで、視界が少し暗くなった。⋯⋯誰かの影?顔を上げようとしたら阻むように強引に肩を組まれた。そのまま顔を覗き込まれて、横にしゃがんだのが会計であると分かった。会計は友達に話しかけるみたいな気安さで声をかけてくる。 「羽月ちゃんさ、その髪型どうしたの〜?猫ちゃんみたいになってるけど、わざと〜?」 「いやこれは、寝癖で⋯⋯」  跳ねた部分を両手で押さえる。さっきまでの自分の全身が周りから見てどんな様子だったのか想像して少し笑いそうになった。 「あは、どうやって寝たらそんな寝癖つくの〜?可愛いけどそのまま壇上行ったらマズいよね〜?オレ髪留め持ってるから付けてあげる〜」  そう言って自らのブレザーのポケットからヘアピンを2つ取り出す会計。陽キャって皆こうなんだろうか⋯⋯?会計は同じ学年と言えどクラスが違うので(彼はS組で俺はA組)、仕事の連絡をちょこっと交わしたことがあるくらいだ。あとは定期考査の上位者が廊下に張り出される時に、毎回俺の名前の真下に彼の名前があるのは知っていた。  俺は特待生枠だから上位をキープしないと学校に居られないし、最初に1位をとってからは半ば意地みたいなモノで1位を維持し続けている。会計は庶民の俺でもしってるような有名グループの息子だから枠の心配なんて無いし、生徒会の仕事もめちゃくちゃ忙しいだろうに俺と殆ど点差が無い。抜かされないように頑張ろうっていう俺自身のやる気にも繋がってて、チャラいけど結構尊敬してる部分もあった。  だから、ヘアピンを俺の髪に留めながら彼が耳元で囁いた言葉の意味を、俺は一瞬理解できなかった。 「羽月ちゃんってやっぱり委員長にも手ぇ出してたんだね〜、流石噂通りのって感じ。あっ、淫乱ちゃんって呼んであげた方が良いのかな〜?」
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