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二人はその後、黙々と歩き続けた。長い時間走り通しで、疲れていたというのもある。だが、正直なところ、少年の頭は現状に追いつけずにいたのだ。
(なんで、こんなことに……)
物思いをしていると、大きめの石に足を取られて体勢を崩した。あっ、という声と共にそのまま転びそうになったが、すんでのところで回避される。
「大丈夫かい?」
「わ! ごめん」
支えてくれた連れから素早く身を離すと、少年は慌てて詫びた。顔が火照っているように思うのは気のせいだろうか。冷静な連れの様子が目に入って、余計に気恥ずかしさが増す。
「……って、あれ?」
少年は首を傾げると、頭上を仰いで目を細めた。
そう、連れの姿が見えたのだ。周りの岩の陰影も分かる。いつの間にやら、淡く白い明かりが差し込む場所まで来ていた。光の筋は細かったが、それでも暗闇を進んできた彼らには十分だ。二人は表情を緩めて、ようやく腰を下ろした。
少年は横目で連れを見る。束ねられた長い黒髪は、艶やかで綺麗だ。際立って目立つ容姿ではないが、醸し出す雰囲気に品が感じられるからか、美しい印象を与える。身に纏っているのは濃紺の衣で、走り通しで少々着崩れた襟元からは、胸元に巻かれた晒がほんの僅かに見えた。少年は慌てて視線を外す。
訳あって行動を共にしているこの連れは、まごうことなき女子だ。年の頃は十六の少年と大差ない。ただし、話し方や身のこなしも相まって、彼女はそこらの男よりも余程頼もしく思える。少なくとも少年の目には、そう映っていた。
「剣呑なことに巻き込んでしまったね。申し訳ない」
やがて少女の口をついて出たのは、そんな言葉だった。
「謝らないでくれよ。あんたがいなけりゃ、おれは今頃、生きてなかったかもしれないんだ……それに、心配なのはそっちだよ。おれのせいで、自分の仲間を敵に回しちゃっただろう」
そう言う少年に、少女はふっと笑った。
「あさぎでいい。名で呼んでくれ」
「そうか? 分かった。おれのことも、鈴丸でいいぞ」
「うん。では、鈴丸。彼らを裏切ることになったのは君のせいではないから、気にするな。どうしても、彼らの考えが解せなかったんだ」
眉間に皺を寄せたあさぎを見て、鈴丸も表情を曇らせる。岩の間から見えるかどうかの夜空を求めて目を凝らした。
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