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その後もたっぷりと打ち合いをする。
一日中動き回っていたため、汗にまみれた体を川の水で洗い流してから、日が傾き始めた頃にようやく町へと帰ってきた。しかし、二人はすぐに目を丸くした。
「あれ? 何かあったのかな?」
そう思ったのは、ある店の前が少々騒がしかったからだ。鈴丸が、聞いてくる、と言って駆け出したので、松吉も慌てて後を追う。
「あの、どうしたの?」
無邪気な問いかけに答えたのは、扇屋の主だった。
「ああ、実はな。材料を運んでくるはずだった馬借が、道中で山賊に出くわしたんだ」
馬借とは、陸の運送を担っている業者のことで、馬の背に荷を掛けて運ぶ人々だ。
どこで戦が起きてもおかしくないこの時代、山道も行く彼らは、山賊などに狙われることが往々にしてあった。そのため用心棒を頼むこともあり、今回も浪人を一人雇っていたらしいが、どうやら出くわした相手のほうが手練れだったようだ。
話によれば、今し方ようやく報せが入ったらしい。幸い命を落とす者はなかったが、たった二人の山賊によって荷は根こそぎ持っていかれたという。近頃、この手の被害をよく耳にする。
「……まあ、死人が出なかったのは不幸中の幸いだった」
店主は肩を落としつつ、そう言った。しかし、さほど大きくはない店だ。これは相当な痛手だろう。集まった者たちが、口々に店主を慰めると、店主も力なく笑った。それから、騒がせた詫びを口にして店じまいを始めたので、皆も散り散りに帰路に着いた。
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