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歩き出した松吉は、不機嫌な顔の少年を見て苦笑する。
「鈴丸、あの店主は商売の腕が良い。今回のことは確かに気の毒な話だが、店がどうこうなることはないさ」
そう言って慰めてみるが、どうやら効果は薄いようだ。
「そうかもしれないけど、ひどい話だ。どうして人の物を奪って、傷つけておいて、平気で過ごしていけるんだよ」
松吉はそっと嘆息した。
「そうだな。そういう輩は、感覚が麻痺してるのかもな。人と全うに関わる術を知らないか、忘れちまってるんだ」
人と全うに関わる……それは、実は難しいことなのだ。生まれ育った環境によっては紡いでいけないものでもある。あるいは、全うとは、そうする余裕のある人々による幻想ではないだろうか。
松吉は口には出さずに密かに思った。
そうこう考えているうちに、鈴丸の家まで辿り着く。琴たちと挨拶を交わしてから、松吉も町屋へ帰っていった。
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