一章 暁の町にて紡ぐ

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 数日後のことである。  この日も松吉に稽古をつけてもらうため、少年は朝から彼の元へと向かった。いつもと同様に連れ立って歩き始めた時、松吉が近所の者に呼び止められた。小用があるというので、鈴丸は先に一人で原っぱに行くことにする。自身の分の木刀は持ってきたため、松吉が来るまではひたすらに素振りをしていた。刀が風を切る音が近頃は様になってきて、それを耳にすると気持ちが昂った。  そんな彼の集中を遮ったのは、女の悲鳴だ。 「え?」  少年は驚いて動きを止め、じっと耳を澄ます。勘違いかとも思った。聞こえたと感じたのは微かな声で、見渡せる範囲には人などいなかったからだ。しかし、その目に山の入口が映った瞬間、背筋が寒気立った。蘇ってきたのは山賊の話だ。 (もしかして、山で誰かが襲われてる?)  今まさに。それならば、すぐに駆けつければ間に合うかもしれない。そう思った時、怖いという感情を押しのけて、あの時の憤りが少年の足を無意識に進めていた。
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