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山まで来るのに、さほど時間はいらなかった。
そこからは慎重に、できる限り音を立てないようにして歩いていく。木の陰から、細い山道に人の姿を認めたのは、それから少し後であった。
道端に座り込んでいるのは、農民の父娘と思われる二人で、近くには米俵が転がっていた。どうやら、町まで米を売りに行く途中だったようだ。
彼らと相対する形で、三人の男たちが得物を手ににやりと笑った。しかし、三人のうち二人、小太りの男と長身の男の刀は、所々錆ついて刀身が曇っていた。腕が立つという割に、己の武器にあまり頓着していないらしい。
怯える父娘へ仲間が刀を向けている間に、小太りの男が俵に手を伸ばす。
「……なっ!」
瞬間、その場にいた皆が固まった。飛び出した鈴丸が、俵に近づく男を木刀で薙ぎ払ったのだ。腹に一撃を食らった男は、得物を取り落として蹲る。少年はその得物を遠くへ蹴りやって、残った二人に木刀を構えた。
「お前らだな。この辺でよく人を襲ってるのは」
「なんだ、小僧!」
いきり立った山賊が声を荒げた。鈴丸は、しかし、その怒声に臆することなく全力で睨みを利かせる。そのまま振り向くことはせず、背後の父娘に声をかけた。
「行って」
「だ、だけんど……」
目の前にいるのは、幼く華奢な少年だ。このまま去ってよいものかと、彼らはすぐに動けずにいた。
「いいから、行け!」
もう一度、今度は強い口調で叫ぶ。すると、飛び上がった父娘は、ようやくその場から走り去った。
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