一章 暁の町にて紡ぐ

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 山賊が彼らを追わなかったのは、落とされた俵がその場に残っていたからだ。無暗に殺生をしても、彼らにとて利はない。 「だが、お前は懲らしめてやる必要がありそうだ。大人相手に、しかも多勢に無勢。自分の間抜けさを思い知るんだな」  目の前の二人が嫌な笑みを浮かべる。 「俺らが持ってるのは、お前の玩具とは違うんだぜ?」 「そんな錆びついた刀なら、木刀で十分だろ」 「言ったな、小僧。後悔させてくれるわ!」  言うが早いか、長身の男が真正面から斬りかかってきた。それを、なんとか(かわ)した鈴丸の髪が、刀を掠める。再び木刀を構え直す前に、唯一、磨かれた刀を持つ男が突っ込んでくる。振り上げられた刀を木刀で弾くと、少し下がって距離を取った。しかし、その隙に長身の男が背後に回っていて、鈴丸はひやりとする。男たちは目配せして、前後から一気に襲ってきた。  互いの距離が瞬く間に狭まって、二人の刀が目前に迫った、その刹那。 「ぐぅ!」  声を上げたのは長身の男だ。痛みで思わず地に膝をつく。二人の攻撃に対し、身を低くした少年は、そのまま男の脛目がけて木刀を叩きつけたのだ。急所の一つを打たれた男はすぐには動けまい。その間に、残り一人になった相手を、鈴丸は再び正面から見据えた。 (なんだよ。思ったより弱いじゃん……じゃあ、なんで、馬借の用心棒は負けたんだ?)  偶然、腕のない者を雇ってしまったのか。束の間、そんなふうに物思いをしたのがいけなかった。
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