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「松吉おじさん!」
そう呼んだ声が、少し掠れていた。松吉は安堵の息を漏らしたが、それも束の間、厳しい顔に早変わりする。
「この阿呆が! なんて無謀なことするんだ!」
松吉は、どちらかと言えば朗らかな性質であるため、彼がこれほど怒鳴るのを聞いたことがなかった。鈴丸は思わず首を竦める。
「ごめんなさい。原っぱにいた時に悲鳴が聞こえて、それで……」
「それで、行ってみたら、山賊に襲われている農民父娘を見つけたんだな」
「あれ? どうして知ってるの?」
驚く少年に、松吉は道で会ったのだと答えた。
松吉が遅れて原っぱに到着し、少年の姿がないのに首を傾げていた時だ。山のほうから、大慌てでやってくる父娘を見かけて呼び止めたという。彼らは青白い顔をしつつも、松吉が木刀を携えているのを目にして助けを求めた。
「少年が、一人残って山賊の相手をしていると。魂消たぞ。けど、お前は山賊の話を聞いた時、そりゃあ怖い顔をしてたからな。もしかしてと思ったんだ」
松吉は、父娘に町から応援を呼んでくるように頼んで、一足先にここへ来た。今頃、町の者たちもこちらへ向かっているだろうから、到着したら山賊を縛り上げて連れて行こうと言う。
「顔が派手に腫れてる。琴さんたちが青ざめちまうぞ。あの人たちに、あんまり心配かけるなよ、ったく」
「……ごめんなさい」
琴たちの名を出されると弱い。
確かに、こんな格好で帰っては、泣かれかねなかった。
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