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その後、山賊たちを縄で縛ると、町へと引き返していく。俵を背負い直した農民の父娘は、町に入って間もなく、米を買いつけてくれる店へと向かった。
やがて他の皆と別れ、鈴丸は松吉に付き添われ家へと帰った。傷だらけの鈴丸を見た琴たちは、少しの間言葉を失う。松吉が事の顛末を説明すると、少年は二人にそれぞれ抱きしめられた。その様子を見ていた松吉が、神妙な面持ちで告げた。
「鈴丸が一人で山賊の相手をしたのは、剣術に多少の心得があったからでしょう。立ち向かう術がなけりゃあ、もっと慎重になったはずです。誰かを呼んでいたかもしれない。だから、もう、剣術の稽古はつけないほうがいいんじゃないかと」
「待ってよ、おじさん!」
驚いた鈴丸が悲痛な声を上げたが、松吉はそれを手で制した。
「会わないとは言ってないさ。遊びに来るくらいなら、これからも構わんから。お前は髪結い処を継ぐんだろう? そもそも、剣術なんて必要じゃない」
松吉は、唇を噛みしめて首を振る少年を静かに見つめる。しかし、ここで琴が待ったをかけた。
「松吉さん。どうか、このままこの子に稽古をつけてくれないかしら」
これには松吉が目を見張った。喜助と琴の立場からすれば、危ないことには手を出してほしくないはずだが。
「いいんですか?」
「ええ。確かに鈴丸はこの店を継ごうと、頑張ってくれています。でもね、今は乱世でしょう? これからもっと戦の激しい世になっていくかもしれない。そう考えたら、私たちはこの子に、自分を守る術ももっておいてほしいの」
それは、自らも故郷を失った、琴の切実な思いだった。喜助も黙って頷いている。そして、己を必死の眼差しで見つめてくる鈴丸に、折れた。
「……分かりました。じゃあ、まあ、これまで通りということで」
松吉の言葉を聞いて、少年は満面の笑みを浮かべる。
それからの鈴丸は、より一層、家業と剣の修行にひたむきに取り組んでいったのだった。
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