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やがて、さらに六年の歳月が流れた。
十六歳になった鈴丸は、店の主として日々を忙しく暮らしていた。
喜助が亡くなったのは一年前のことで、琴も随分長く寝ついている。
そんな状況だったため、近頃は昔のように松吉と稽古をする時間はなくなっていた。その代わり、たまに松吉のほうが鈴丸たちの家に顔を出してくれている。
この日も土産を携えて、店が落ち着いた夕刻にやってきた。
「これ、羊羹な。小豆は体にもいいと聞くから、琴さんも食欲があればと思ってな」
この頃の羊羹は蒸したものが主で、小豆を小麦粉や葛粉で固め、甘葛などで甘味をつけて作られていた。
甘い菓子はまだまだ貴重だ。鈴丸が、特に自分のためには贅沢品を求めないことを知っているので、松吉はこういったものを選んでは差し入れをしていた。
「わあ、ありがとう!」
素直に目を輝かせる様子は、年より幼く見える。松吉は履物はそのままに、土間近くの板間に腰かけた。鈴丸がお茶を出すと、松吉はそれを口にしつつ今日の出来事を話し出す。
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