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琴が相原の家に居候を始めてから、十年が過ぎようとしていた。
少女はあれから、結局喜平の弟子になっていた。髪結いの仕事を目の前で見ていくにつれ、素直に憧れを抱いたからだ。
琴は、仕事の指南をしてもらいつつ、家のこともこなすしっかり者で、親子も相変わらず優しかった。喜平は本当の娘のように接してくれたし、喜助は兄代わりであり兄弟子として切磋琢磨できる存在となった。出会った日以来、親子が琴の出自などについて問いただすことはなく、琴からもそれ以上告げはしなかったが、日々はただ穏やかに過ぎていく。それが一番重要なことであった。
そんな彼らも年を重ね、そして、本当の家族になった。喜助が二十四、琴が二十二で二人は夫婦となったのだ。兄妹のような関係を経て、喜助は琴の真面目な姿とその笑顔に、琴は彼の誠実で穏やかなところに、いつしか惹かれていった。彼らはやがて、年老いた喜平に代わって、夫婦で店を切り盛りするようになる。
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