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「あ、夕飯の用意ができてないや」
「本当だわね。ついつい夢中で教え込んでしまったわ」
鈴丸の声に、琴もはっとして立ち上がろうとする。
「いいよ、ばあちゃん。今日はおれが作るから」
少年はそう言うと、慣れた様子で夕飯作りに取りかかった。
物心ついた頃から三人暮らしだった鈴丸は、今では家事もひと通りこなせる。年のいった二人に代わって、炊事などをすることは常であった。
この日は簡単な男飯だ。囲炉裏に大きな鍋を吊って、米や麦と青菜、水、味噌を加えよく炊く。その間に、串に刺した魚を下に立てて焼き始めると、次第に香ばしい匂いが漂ってきて腹の虫が鳴き始めた。
いつかと変わらない食事風景が、ここにはある。喜平がいた頃から、ずっと受け継がれてきた空気だ。
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