5話 猟犬様との逢瀬

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5話 猟犬様との逢瀬

 希望は朝からベッドに何種類も服を並べ、組み合わせてはやり直し、また組み合わせて、と何回も繰り返していた。悩んでいるようだが、それも楽しそうだ。鼻歌も聞こえてくるし、リズムに合わせて動きも軽やかに弾んでいる。  希美も今日は仕事が休みで、ゆったりとソファに腰掛けていた。本を読みながら、時々希望を眺めて、楽しそうだなぁ、と微笑ましく思う。  ようやく二つまで絞れたのか、希望が希美のもとに笑顔でやってきた。   「ねえ希美! 今日ライさんと狩りに行くんだけど、どっちがいいかな!」 「ラッ!? ラ、ラララライさんと狩り!?」    希美は本を落として立ち上がった。  希美の大きな声は非常に珍しい。希望の目は丸くなって、きょとん、とした顔で希美を見つめた。   「希美? どうしたの?」 「だって……! い、いつの間にライさんとそんなに仲良く……? デッ……、デートの約束まで……?!」 「え? デート?」    希美が両手で口を押さえて震えているのを、希望はポカン、と口を開けて見つめる。  希望が頭の中で言葉を繰り返している間、二人とも無言で、希美の震えだけがとまらなかった。   「……デート!?」    希望が叫ぶと同時に、両手から本日渾身のコーディネート二種類がバサバサと派手な音を立てて、床に散らばってしまう。  希美が静かに頷くと、希望もまた、希美と同じように両手で口を押さえた。そして、ぷるぷると震える。   「デ、デートだこれ!!」 「嘘でしょ? 今気付いた?」 「う、うん……」    希望も希美も、二人揃ってはわわわと、立ったまま震えている。   「狩りなんてしたことない、って言ったら教えてくれるって、それで……! ど、どうしよう!?」    希望が混乱のあまりいつもより瞳を潤ませる姿に、希美は少し驚いていた。  希望は友達も多く、誰とでも仲良くなれる。距離感が近くて、スキンシップも好きだが、決して軽い男ではないことを兄弟である希美はよく知っていた。  人懐っこいが、懐く相手はしっかり選ぶのだ。「それは人懐っこいと言えるのか?」と問われれば非常に答えに迷うが、皆が人懐っこいと思っているのだからそれでいいじゃないか、何が問題なのか、と逆に問い返したい。    それはさておき、親しくなっても決して一線を超えさせない希望を、あっさり二人っきりのデートに誘い出すとは。    希美は奥歯を噛み締め、拳を強く握った。   「くっ! 恐るべしライさん……さすがNo.1の猟犬……!!」 「No.1の猟犬ってそっちの意味でも?!」 「見たらわかるだろ。どう見てもそっちの意味でもNo.1だよ」 「た、確かに……! あの顔と声で口説かれたら誰でも狩られて……」    途中で何かに気づいた希望は、はっとして目を見開き、震えた。    ……もしかして今日狩られる獲物は、俺!? 
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