始まりの骨 ミズノコイビト

1/1
前へ
/142ページ
次へ

始まりの骨 ミズノコイビト

 冷たい夜に、月が射す。  薄暗がりの中、声を聞いた。 『お前は、もう死ぬ。』  声は確かに、そう言った。  少し低いけど、澄んだ声だった。……前にも聞いたことがある声。  どこだっけ?  いつだっけ? ――――ああそうだ、あの時に、生まれた時に。  この声は何だったっけ、誰だっけ……ああ、そうだ。 (かみ、さま?) 『お前はもう死ぬ。――――だから、その前に聞いておこう。死んで、声が聞けなくなる前に。……お前が今一番やりたいことは、何だ?』  神様の言葉を、一つ一つ聴く。  ああ、この人は。  私を助けてくれるんだなって、思った。 「わ、た  し……は、私、は……。」  かは、と小さく息を吐く。  やりたいこと、今一番やりたいこと。  やり残したこと。  たくさん、あるけど。  一つしか、ない。  いくつも、あるけど。  一つだけ、ある。 「好きって、言いたいです。『  』に。」  かすれそうな声を、振り絞って。  たった一つの、願いを。 「……そうか。」  神様が、微笑んだ気がする。  そして神様は、私を見守るって言ってくれた。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加