~第一章~ 今日から神様!

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―――・・・ソレって、もしかしなくても俺のことだよな。 門に身体を預ける少年はゼンと知り合いなのだろう。 そして、神様と認識しながら“ソレ”呼ばわりしたということだ。  結真にこの世界での事情は分からないが、単純に神が敬われるわけではないのかもしれない。  「御名前はユウシン様と申される」 「ふーん・・・。 言いにくい名前」 「レイ、さっきから失礼だぞ!」 ゼンとレイと呼ばれる少年のやり取りを聞きながら考えていた。 神と言えば人にとって手に届かない存在であるはずだが、今はその神が自分だという。  正直なところ、それが以前から考えていた神と全く別物の可能性もあるが、自分が神であるならば手が届かないどころか真逆になった。  それなら敬われるよりも慕われる方がいいし、まだ右も左も分からない結真は教わる側になる。 「あぁ、いいって! 言いにくいのは確かなんだし。 そうだな、俺のことはユーシでいいよ」 少し馴れ馴れしい気もするが、一応神である自分から関係を緩めた方がいいと思った。 ゼンは硬過ぎるし、ソレ呼ばわりもやはり嫌だ。  年齢もそれ程変わらないように思え、学校の友達とのような関係が最も心地いい。 ただゼンはそうはならないようで、深々と頭を下げていた。 「申し訳ございません、ユウシン様」 「ゼンも俺のことはユーシでいいよ」 「主と従の絶対的関係は不動です。 私は継続してユウシン様とお呼びさせていただきます」 「・・・あ、そう」 神様に心底忠誠を誓っているのか、ゼンは真っすぐで揺るがない信念を持つ人だった。 少年は結真の足先から頭のてっぺんまで値踏みするよう見た後、つまらなさそうに背を向ける。  そんな彼をゼンが放っておくはずがなかった。 「レイ。 ユウシン様にするべきことがあるでしょう?」 レイは小さく肩を揺らすと、振り返り結真を冷めた目で見つめる。 「向坂玲(サキサカレイ)。 14歳。 前の神様みたいに放棄しないでよね」 レイはそれだけを言うと再び背中を見せ去っていった。 ―――放棄? ―――俺の前の神様は逃げ出したっていうことなのか? ゼンと最初に会った時、明らかに結真を探していた。 それは探さなければいけない程差し迫った状況にあったということだ。 前任者について気にはなったが、おそらく尋ねてもいい顔はされないだろう。 「ゼン、もしかして今の子も神職だったりする?」 「レイは私と同様、ユウシン様の側近を務めることになっております」 「側近!? 俺、気に入られていないようだったけど大丈夫か? 嫌なら無理させる必要はないんだけど」 「申し訳ございません。 神職は希望さえすれば誰でもなれる可能性があるのですが、適任者がおらず限られていまして」 「いや、そうは言っても・・・」 「レイは捨て子としてここへ来て、色々あり少々気難しい時期のようです。 ですが心配はありません。 あれも昨日今日側近になったわけではございませんので」 「・・・捨て子?」 これから身近な存在になるレイのことを詳しく聞きたかったが、それよりも眼前に切れ目の見えない階段が広がり息を呑むことになる。  生きている頃にこの階段を上るとなれば大仕事だが、今の身体なら軽々と上れるのかもしれない。 そんな風に思ったのも束の間、三分の一もいかないところで足がピタリと止まった。 ―――夢のくせに生きている頃と変わらないじゃんか! ゼンは息を切らすことすらなく軽々と上っているのに、結真はもう汗だくになっている。 そんな結真を見かねてかゼンが手を差し伸べてはくれるが、首を横に振って応えた。 ―――流石に手は借りられないだろ・・・ッ! ―――っていうか、毎回これを上らないといけないわけ!? 結真の心は早々に挫けそうだった。 同時にある誓いを立てる。 ―――絶対にエレベーターを作ってもらう! 情けないことだが、神としてこの先やっていくにあたりそれは譲れない条件だ。 折角これだけ文明が発達しているようなのだから、階段を歩いて上るなんてナンセンス。  体力をつける必要があるならそれに専念した方がいい。 それでもとりあえず必死で階段を上り終え息を整えていると、ゼンが時間を確認し申し訳なさそうに言った。 「申し訳ありませんが、時間がありません。 ユウシン様、まずはお着替えを」 神社というより城に近い造りで、案内された部屋で黄色い狩衣を着させられた。 ゼンの指示の通り着ていくが、やはり慣れない服のため大変だ。 「とてもよくお似合いです」 最後に姿見を見せて確認させてくれた。 この神社内ではこの服装が普段着なのだそうだ。 「うわぁ、マジで本物のコスプレみたい・・・。 夢の中でも生地はしっかりしてんだなぁ」 初めて着る狩衣に感動していると勢いよく襖が開いた。 そこから緑色の狩衣を着た髪の長い男性が姿を現す。 歳は結真よりかなり上に見える。 「ッ! 神様ぁー!!」 「うわッ!?」 「神様! お目にかかれて嬉しゅうございます!!!」 大声と共にまるでイノシシの突進かのように抱き着かれた。 困惑しつつも男に抱き着かれる趣味はないため押し退ける。  「わ、分かったから、そんなにくっつかないでくれ・・・ッ!」 「これはこれは! 私失礼なことを! 申し訳ございません!!」 ―――何か強烈なキャラが出てきたな・・・。 観察しているとゼンが頭を下げながら紹介した。 「ユウシン様。 この方はこの神社の神主となります」 「へぇ・・・。 え、神主!?」 「はい。 神様の次にお偉い方です」 ―――この人が!? 神様の次、ということはゼンよりも偉いということになる。 ただ見た目とは裏腹に子供っぽい雰囲気に違和感を覚えた。 ゼンの方が余程位が上に思えるのだ。 「彼はどの神様でもこのような対応をするため、あまり気に留めない方がよろしいかと」 「ゼン、何を言っておられるのですか! ユウシン様に失礼です! 私はユウシン様一途ですよ!!」 その物言いに結真は顔を引きつらせた。 他意はないのかもしれないが、一途という言葉が男性から自分に向けられているというのはむず痒い気持ちになる。  だが逆に神様の次に偉いためにこんな風にできるのかもしれない。 結真が呆れながら考えていると、ゼンが彼に言う。 「俺は次の漂着者が訪問されるのを待っている。 その間にユウシン様のことを頼むよ」 「かしこまりました!」 ゼンの後姿を見送り、彼は結真に向き直る。 子供っぽい雰囲気はあるが、狩衣の着こなしは慣れたもので様になっている。 「ユウシン様」 「は、はい!」 自分に一途といった相手と部屋で二人きりという状況は非常にやりにくい。 この後何が起こるか分からないが、結真が身構えてしまうのも無理のないことだろう。
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