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鏡を使って狭間の世界へ戻る時、成仏に成功してもしなくても必ず人数は行きより一人減る。 今回はユキミの成仏を成功させるため、いつも以上に時間を使ったため思いも一入だった。
にもかかわらず以前シンヤの時に感じた虚無感に比べれば、随分と慣れてしまっている。
人の死を看取る職に就いている人間は現世でも多くいるが、こんな感じなのではないかと思ってしまう。
「ユーシ様、おかえりなさいませ」
狭間の世界へ戻ると、温かい笑顔でカオルが迎えてくれた。 失敗しても成功しても同じような調子で迎えてくれるカオルの存在は有難い。 そして、ゼンが何も言わずともカオルに報告してくれる。
「今回もユウシン様のご活躍により、ユキミ様は無事成仏なさった」
「それはよかったです」
いつも通りのゼンとカオルのやり取りを聞き流しながら結真は考えた。
―――もう既に願いの欠片はあるんだよな?
―――ならいつでもこの狭間の世界をなくすことができるということだ。
―――・・・このタイミングで使ってもいいものか?
―――ゼンとも話したし、レイの未練のことも解決し終えた。
―――もう狭間の世界でやり残したことはないから、このまま願っても・・・。
だが雰囲気的にどうも願い叶えにくい。 困っているとレイの様子がどこかおかしいことに気付く。
「・・・レイ?」
レイはゆっくりと顔を上げ結真を見た。 レイの表情が今までに見たことがないように固くなっている。
「どうかした?」
「・・・ユーシ、ごめん」
「何が?」
「・・・」
レイは黙り込んだ。 そこから察するに、おそらくはここでは言えないことなのだ。 そうなるとレイが考えていることが何となく分かってしまう。
ゼンとカオルはまだ話し込んでいるためレイを連れて場を離れた。 二人の姿が見えない場所まで移動し、念のため聞いてみることにする。
「何が『ごめん』なんだ?」
レイは冷静な口調で予想通りのことを口にした。
「・・・やっぱり、兄さんに復讐したい」
「ッ・・・」
「ユキミ様が幸せそうに成仏していくのを見て、オレも未練を叶えたくなった」
「は!? いや、ちょっと待て! レイの未練ってもう解決したはずじゃ」
「確かにユーシの言葉は心に響いたよ。 だけど未練落ちにまではいかなかった」
「そんな・・・」
「オレにはもう兄さんを追い越すことなんて絶対にできない」
レイは前を向くことを諦めかけている。 結真は反論しようとしたが、上手い言葉が見つからないうちに先にレイに言われてしまった。
「ユーシはこの後、狭間の世界をなくすつもりなんでしょ? ならその前にオレの未練を叶えさせてほしい」
「本気か・・・?」
黙って頷くレイの表情の真剣さを見れば、これ以上止めることができなかった。 それに確かにこの世界を消してしまえば復讐も未練も何もなくなってしまうのだ。
レイは未練落ちが確定しているはずであるが、狭間の世界を消せばリセットされるということもないだろう。 そうなると、あまり交流のないレイの兄よりもレイの気持ちを優先させたくなってしまうもの。
「・・・分かった。 いつ向かうんだ?」
「今から兄さんのところへ行ってくる。 ユーシがいつ狭間の世界をなくすのか分からないから」
「俺も行くよ」
「・・・勝手にしたら」
そう吐き捨てるとレイは足早に神社の玄関へと向かい歩き出した。 気持ちが急いでいるのか足取りがかなり早い。
「ユウシン様? どこへ向かわれるのですか?」
ある意味当然ではあるが、途中でカオルと話していたゼンに見つかってしまう。 もう話は終わったのかカオルの姿はなかった。
「あー、ちょっとレイと一緒に散歩でも行ってくるよ」
レイはおそらくゼンに怪しまれないためか、一応立ち止まってくれた。 だがゼンは後ろ姿だけでレイの様子がおかしいことに気付いたようだった。
「でしたら私もお供します」
「いや、いいって! できれば今はレイと二人きりがいいんだ」
ゼンがいたら必ず復讐前に止めに入るのは見えている。 レイのためにもゼンを連れていくわけにはいかなかった。
「・・・分かりました。 ユウシン様、終わりの先にあるのは必ずこの二つです。 全てが無と帰すか、もう一度最初からやり直すか。
選択の結果が終わりの先にどう影響を及ぼすのかは誰にも分かりません。 レイのこと、よろしくお願いいたします」
「・・・あ、うん」
こういう時、ゼンは必ずレイに対して声をかけていた。 結真のことを守るように、と。 それが今は結真に向かいその真剣な眼を向けたのだ。
―――・・・終わりの先、か。
レイもゼンの言葉の意味は分かっているのか、更に歩みを早めスタスタと行ってしまった。 慌てて結真も追いかける。 その二人の背中を珍しく不安そうにゼンは眺めているのだった。
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