~第一章~ 今日から神様!

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「レイ! 待てって!」 結真は神社からどんどん遠ざかるレイの後を追いかけていく。 正直な話、復讐を容認するというスタンスを取ろうと思っていた結真ではあるが、止められるなら止めたいという気持ちは今でも変わっていない。 世界を終えるその先に、優先するべき相手を考えるなら付き合いのないカイよりもレイというだけの話だ。 虚無落ちが確定しているレイからしてみれば、成しても成さなくても待っているのは終焉なのだ。 ―――だけど本当にそれでいいのか? ―――現世で死を覚悟した人間が、無差別テロを起こすのと何ら変わりないんじゃ・・・。 ゼンによると虚無へ落ちるとどうなるのかは全く分かっていないと言っていた。 薄い可能性でも先の見えない未来に希望を持つのも選択肢の一つではないのだろうか。 「レイ! そんなに急ぐ必要ないだろ!!」 とりあえず時間を稼ごうと叫ぶと、レイは急に方向転換を行った。 その先は明らかにカイのいる場所へ向かう方向ではない。 「ん? どこへ行くんだ?」 後を付いていくと徐にレイは建物と建物の隙間に手を突っ込んだ。 そこから出てきたのは人が持つには大変そうな大きな石。 漬物石にでもすれば丁度よさそうだが、レイが突然漬物を始めようと考えたわけではないだろう。 「その石はどこから・・・」 「兄さんに復讐をするためにずっと前から隠し持っていた」 意図的に危険物を凶器として持つことを禁止された世界。 レイが選んだ凶器が石であるということの生々しさに結真は背筋に冷たいものが伝った。 「・・・やっぱりレイの復讐はカイさんを殺すことか?」 「・・・別に殺さなくてもいいけどね。 ただオレと同じ苦しみを味わってくれたらそれでいい」 「・・・」 「行こう。 暗くなる前に」 結真とレイがカイのいる場所へと向かう途中、二人は一言も話さなかった。 いや、話せなかったという方が正しい。 人を殺しに向かっている人間がいるというのに、上手い言葉が見つからなかった。 レイは重そうな石を軽々と運んでいる。 それを選択した時の彼の心境は一体どんなものだったのだろう。 「・・・それ、重くないのか?」 「重いけど、これまで抱えてきたしがらみに比べたら軽いものだ」 「・・・別にそんな上手いことを言うの求めていないから」 「止めないの?」 それをレイから言われるとは思ってもみなかった。 「止めたら諦めるのか?」 「・・・」 「止めて止まらないなら、踏み外す道を少なくするのがせめてできることだと思ってる」 「・・・ありがとう」 礼を言われることなのか分からない。 ただこれで安易に止めることができなくなったのは事実だ。 そうしているうちに以前やってきたカイが働いている場所まで到着した。 「いるとしたらもう仕事を終えて、自室とかか?」 「いや。 兄さんの性格上、真面目だから遅くまで仕事をしていると思う」 「じゃあ前に行った仕事場へ行けばいいのか」 そうして向かうと確かにカイはそこにいた。 既に子供たちの姿はなく、仕事場で一人仕事をこなしている。 その姿は放課後遅くまで職員室に残る先生のよう。 レイは持ってきた石を地面に置いた。 「兄さんが外へ出てくるまで待とう」 「どうやって復讐するんだ?」 「兄さんの背後に回って頭を目がけて石を振り下ろす。 それだけさ」 冷たく、そして寂しそうに言い放つレイ。 石の大きさやレイの身体能力を考えれば十分過ぎるダメージが予想できる。 レイが以前怪我したことからも、この世界でも現世と同様に怪我をする。 死ねば虚無へ落ちるということも聞いた。 つまりレイはカイを虚無へと落としたいのだろうか。 当然、その結果自身も虚無へと落ちることになるのに。 「・・・オレさ。 ユーシと出会えてよかったよ」 「・・・え?」 改めてそう言われ普段のレイとの違和感を感じた。 「初めてなんだ。 神様にオレの未練を教えたの。 今までは聞かれても答えなかった」 「それはどうしてだ?」 「どうしてだろう。 教えても何の意味もないと思ったからかな」 「じゃあどうして俺には教えてくれたんだ? レイが未練を教えてくれる時、あの時の俺たちの関係はまだ良好だとは言えなかっただろ」 「確かに言えなかった。 ・・・でもユーシは他の神様とはどこか違うと感じていたから」 「・・・違うって?」 「漠然とし過ぎていてよく分からない。 でもそう思えるんだ」 そうして日が完全に落ち切った時、カイは動き始めた。 仕事を終えたのか片付けをして、掃除までしている。 レイが復讐を実行する時が近付いていた。 「・・・本当に後悔はないんだな?」 「うん。 そのためにオレはこの世界へ来たから」 レイはそう言って地面に置かれている石に触れた。 よくよく観察するとその石はかなり丸っこく、尖っていないことがレイの殺意の低さを表しているような気もした。 しばらくするとカイが仕事場から荷物を持って現れた。 「行ってくる」 「・・・あぁ」 「ユーシはここにいて。 だけどもしユーシが誰かに狙われそうだったら、その時は叫んで」 ―――こんな時まで俺の心配をしてくれるのか。 ―――出会った時のレイとは大分変わったな。 レイは石を両手で持ち立ち上がった。 カイの後ろに音を立てずに回り込む。 カイは宿のドアの鍵を閉めようとバッグの中を漁っていた。 ―――俺はこの狭間の世界をなくそうとしている。 ―――そしてレイも虚無落ちだけど未練が叶う。 ―――これでスッキリするじゃないか。 ―――・・・なのにどうして、こんなにも胸がざわつくんだよ。 そうしてレイはカイに近付くと、躊躇いもせずカイに向かって思い切り石を振り下ろしたのだ。
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