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彼らの部族の戦闘部隊――通称【獣】――は、その強さと結束の固さで名を馳せ、他部族のそれを圧倒し続けていました。産業に乏しいこの国で、強さは一つのブランドにもなりえます。
傭兵。護衛。暗殺。警護。国内からの要請、国外からの依頼、仕事はいくらでも、吟味して選別できるほどに、ありました。
彼らに報酬を払い渋る客などいません。つまり、彼の部族は、この貧しい土地では豊かなほうであり、部族に富をもたらす【獣】たちは、部族内でも尊敬を集める立場でした。
事実、《獅子》を先頭に頂いた彼らは、まったく誇らしげな獣たちでした。ともすれば激しがちな《獅子》、それに共鳴しやすい獣たちを、一歩引いた見地から宥めるのはいつだって、《狐》でした。
《狐》はそれほど体躯にも恵まれていません。《獅子》ほどの勇敢さもありません。獣たちの中では異質なタイプだったかもしれません。何かにつけてリスクを慮る《狐》に対し、《獅子》はよくこうからかいました。
「臆病なことよ。しかし、臆病ゆえに生き延びる、さかしい狐どのの意見だ。聞いておこうか」
《獅子》も強いだけの莫迦ではありません。しかし、知略に長けているだけでもまた、強いだけの獣たちを束ねてはいかれません。本当に危うい時など、《獅子》はそうやって《狐》の意見を盾にして群を危険から回避させてきたのです。
とはいえ、《獅子》と《狐》の関係は、特別に親密でもなければ、険悪でもありませんでした。《狐》は自分には無いものをたくさんそなえている《獅子》を、リーダーとして仰いではいましたが、それだけでした。ただの群の仲間というだけのことです。
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