第2話 二人し居れば「恵文社」

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第2話 二人し居れば「恵文社」

わたしの住んでいるマンションは、一乗寺というところにある。 一乗寺と聞いて、大抵の人が最初に思い浮かべるのはラーメンだろう。超濃厚スープで有名な「極鶏」や、ボリューム満点の「夢を語れ」など、行列のできる店が数多く立ち並ぶ、西のラーメン激戦区。それが、一般的な一乗寺のイメージだ。 だけどその一方で、おしゃれなカフェや雑貨屋がひっそりと存在する、小粋な場所であるのもまた事実。これはもしかしたら、ここに住んでいる人しか知らないことなのかも。 急遽、間崎教授の担当する金曜2限の講義が休講になった。1限目は元々講義を取っていないため、午前中が丸々あいたことになる。それならゆっくり寝ていればよかったのだけれど、こういう日に限って早く目が覚めてしまった。このぽっかりあいた時間をどう埋めようか。二度寝するのももったいないし、せっかくならば、少し近くを散策してみよう。そう思い立って、わたしは部屋の隅に置きっ放しだった段ボールを開いた。 奥底から取り出したのは、愛用の一眼レフカメラだ。黒くって、つやつやしていて、手に持つとずしりと懐かしい重みがある。受験生になる前は、時間があればこのカメラを持って写真を撮りに出かけていたっけ。最近まで忙しくてなかなか機会がなかったけれど、せっかく京都に来たのだから、たくさん写真を撮らなければもったいないわ。わたしはカメラを手に取って、勢いよく部屋から飛び出した。
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