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予想外の言葉に、隆也の声がひっくり返った。人殺しに練習って、それはもはや練習じゃない。練習で人を殺したら本番じゃないか。しかし、杏璃はいたって真面目らしい。
「噂があるの。人殺しの練習をさせてくれる、『殺され屋』ってのがいるらしいの」
「『殺され屋』?」
「殺し屋」なら聞いたことがあるが、「殺され屋」は初耳だ。
「だからまずはそこに行って、確実に殺せる手段を教えてもらうの」
あまりにも非現実的な話だ。隆也は諌めることも忘れて呆然とした。そんな都市伝説を、杏璃は本当に信じているのだろうか。大人びているとはいえ、やはりまだ中学生だ。隆也の心中を悟ったのか、杏璃は苛ついたように立ち上がった。
「あんたはそうやって、震えてなさいよ。人生をよくする努力もせず、不満ばっか言ってるクズが」
「ま、待ってよ」
そのまま去っていこうとする杏璃の腕を慌ててつかんだ。杏璃が露骨にいやそうな顔をする。
「何?」
隆也は立ち上がって、言葉を探した。思わず呼びとめてしまったが、どんな言葉をかければいいのか分からない。
杏璃は、本気だ。「殺され屋」の話が真実かどうかは知らないが、これだけは分かる。杏璃は本気で、沢木を殺すつもりなのだ。それだけは、とめなければならない。黙っている隆也を見て、杏璃が忌々しげに顔を歪めた。何か、何か言わなければ。彼女をとめる言葉を、何か。
そう思ったら、思いもしない言葉が口から漏れた。
「……俺が、やるよ」
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