第2話 仁科隆也

6/19
前へ
/117ページ
次へ
 朝霧と名乗る男は、ふたりにビルの3階へ上るよう指示して姿を消した。こんなに都合よく「殺され屋」に出会えるものなのか。少々不信感はあるものの、他にあてもないので、男の指示に従うことにした。 「本当にいたんだ……」  狭い階段を上りながらつぶやくと、前にいる杏璃が振り返った。 「疑ってたの?」 「だって……」  杏璃は不満そうに口を曲げたが、それ以上は何も言わず、再び前を向いて階段を進んだ。彼女も多少なりとも自分と同じ考えを持っていたようだ。  たどり着いた先にあったのは、白い扉だった。どこかの事務所のような簡素な扉だ。隆也は杏璃と目配せし、おそるおそるドアノブに手をかけた。が、隆也が扉を開く前に、ひとりの少女が部屋から出てきた。  頭についた大きなリボン。色素の薄いショートボブ。青い瞳に白すぎる肌。ふんわりとした白いワンピース。  まるで、生きた人形だ。その顔立ちの精巧さに、隆也ははっと息を呑んだ。年は10歳から12歳くらいに見える。彼女はふたりを瞳に映すと、 「どうぞ」  そう言って、部屋の中へと招き入れた。 「……誰?」 「俺に言われても……」  隆也は首を傾げながら、少女に案内されるがまま、ソファへと腰を下ろした。部屋の奥には小さなキッチンがあった。少女はキッチンへ向かうと、お茶の用意を始めた。杏璃は訝しげに少女を見ながら、隆也の隣に腰かけた。 「いらっしゃい」  しばらくすると、朝霧が部屋の中へと入ってきた。隆也たちの目の前にあるソファに座り、穏やかに微笑む。少女は3人分のアイスティーをテーブルに置くと、朝霧の隣にちょこんと座った。  おかしな組み合わせだ。  朝霧と少女を見比べながら、隆也は思った。朝霧が本当に「殺され屋」だとしたら、この少女は一体何なのだろうか。助手にしては幼すぎるし、妹だとしても、なぜこの場に居合わせているのかふしぎだ。自分たちの用件は、こんな子供の前でするような話ではないのに。  それに、と、隆也は目の前の男をじっと見つめた。赤銅色の髪に、耳元についたピアス。年齢はよく分からないが、たぶん自分より少し年下なのだろう。外見は若者らしいのに、まとっている雰囲気は若者らしからぬものだ。まるで人生に疲れた老人のような、ただならぬ哀愁があった。 「で、ご用件は?」
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加