第2話 仁科隆也

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 杏璃と白雪が戻ってきたのは、窓から見える空が群青色に変化した頃だった。 「ただいま、紫苑……」 「重たい!」 「お疲れ」  朝霧はソファから立ち上がり、ふたりの手から買い物袋を取った。 「いっぱい買ったな」 「この子がどんどん買い物かごに入れてくんだもん」  杏璃に指をさされても、白雪は何の反応も示さない。朝霧は苦笑しながら買い物袋をキッチンに運んだ。 「じゃあ、ちょうどいいや。お前らふたりで飯、作ってくれよ」 「は? 何で?」 「俺が腹減ってるから」 「何それ、真面目にやってよ」 「お前、もしかして飯作れないの?」 「……作れるわよ、それくらい」  杏璃が小声で答えると、朝霧はますますおかしそうに手のひらで口元を覆った。 「じゃ、仲よくよろしく。できたら呼んで」  不満げな表情の杏璃を残し、朝霧はそのまま部屋から出ていってしまった。 「……何、あの男」  部屋の扉を見つめながら、杏璃が吐き捨てるように言った。それから隆也の方に近づいて、 「今まで何話してたの? 殺し方、教わった?」 「いや、まだ……」  隆也が言葉を濁すと、杏璃は苛立ちを吐き出すようにため息をついた。キッチンに立っている白雪が、買ってきた食材を並べ始めた。杏璃の罵倒を浴びぬよう、隆也はソファから立ち上がった。 「俺も、手伝うよ。何すればいい?」 「ちょっと、隆也!」  キッチンへ向かう隆也の背中に、杏璃の叫び声があたった。振り返ると、案の定杏璃は鬼のような形相をしている。 「……この子ひとりじゃ、かわいそうだろ」  杏璃はまだ何か言いたげだったが、それ以上何も言うことはなかった。  キッチンに行くと、白雪が少し驚いたように隆也を見上げた。自分も背は高い方ではないが、こうしてすぐ近くに立つと、白雪の小ささと美しさに目を見張る。見た目は確かに子供なのに、その容姿はすでに完成されているのだ。同じ人間とは思えない。もしかしたら本当に、人間ではないのかもしれない、という気さえする。白雪は、何かを見定めるようにじっと隆也を見上げていた。それは先ほどの朝霧と同じだ。  手伝うなんて差し出がましかったかもしれない。少したじろいだが、白雪は隆也に向かって頭を下げた。 「ありがとう、ございます」  面と向かってお礼を言われるなんて、いつ以来だろう。なんだか気恥ずかしくなって、隆也は思わず目を逸らした。 「で、何を作るの?」 「ロールキャベツです」 「よかった。それなら俺も手伝えるよ」  必要な食材をすべて並べ終え、ふたりは早速調理を開始した。杏璃は煮えきらない表情でふたりを眺めていたが、手持ち無沙汰になったのか、しぶしぶキッチンへと入ってきた。
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