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1日が過ぎるのは早い。入学して1ヶ月も経てば高校にもすっかり慣れて、新しい制服にも校舎にも、すっかりなじんでしまった。難しい授業に頭を悩ませ、新しくできた友だちと談笑し、テニス部で汗を流して校舎を出れば、西の空は赤く染まっている。
早く帰ってこいという母親の言葉を覚えていながらも、神狩は帰宅途中で本屋に寄った。毎月購入しているファッション雑誌の発売日であることを思い出したからだ。
きらきらと輝くモデルが表紙の雑誌を手に取り、ぱらぱらとめくる。いいなぁ。かわいいなぁ。こんな風になれたらいいのに。お気に入りのモデルを眺めながら、自分の髪を指で弄んでみる。今のままではどうあがいてもモデルには近づけそうにない。特別かわいくもない、勉強もできない神狩の取り柄は、運動神経とポジティブ思考くらいだ。短く息を吐いて雑誌をたたむ。そのままレジに持っていこうとした時、見知った人物が視界の端に映った。
お姫様のようにフリルのついた白い服。大きなリボン。ショートボブのきれいな髪。モデルよりも整った、フランス人形のようにきれいな顔立ち。10歳くらいの少女が、真剣な表情で本を広げている。神狩は口元に笑みを浮かべて、忍び足で少女に近寄った。
「雪ちゃん」
肩を叩いて声をかけると、白雪が本から顔を上げた。
「……神狩」
「久しぶりだね、元気だった?」
白雪は無表情のまま、はい、と小さくうなずいた。
このきれいな少女に出会ったのは1ヶ月ほど前のことだ。学校からの帰り道、買い物袋の中身を道路にぶちまけてしまった白雪を助けたことがきっかけで仲よくなった。一目見た瞬間から、彼女のかわいらしさに心を奪われた。今まで憧れていたモデルや芸能人とは次元が違う、その異質なまでの美しさに。まるでダイヤモンドを擬人化したような、その輝きに。自分より年下のこの少女に、羨望を抱いた。それから帰り道でしばしば白雪を見かけるようになった。どうやら神狩の高校の近くに住んでいるらしい。
「神狩は学校の帰りですか」
「うん。何見てるの?」
「料理の本です」
白雪は本の表紙を神狩に見せた。そこには「本格的! おいしいレシピ100」と書いてある。
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