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「雪ちゃん料理するの? えらいねぇ」
「この間、自分の料理がおいしくないということが分かったので、上達しなければと思ったんですけど……」
白雪は本をぱらぱらとめくりながら、困ったように眉を下げた。
「漢字が多くて、少し難しいです」
「どれ、見せて?」
神狩は白雪から本を受け取り、中身をざっと見通した。専門用語も多く、白雪には難しいだろう。もっと初心者向けの本はないのか、と本棚を見渡してみる。手に取って選んでみるものの、どれも値段が少し高い。
「あ、そうだ。うちにもっと分かりやすい本あるから、あげようか?」
「いいんですか?」
白雪の青い瞳に、ぽっと光が灯った。
「うん。私もう使わないし……あ、よかったら今度うちに来なよ。私、料理だけは得意なんだ。だから今度教えてあげる」
「……教えて、くれるんですか」
「もちろん、雪ちゃんがよければだけど。次の土曜日なんてどう? 忙しい?」
白雪は首を左右に振り、「大丈夫です」と微笑んだ。
「……ありがとう、ございます」
綿菓子のような甘い微笑みに、神狩もつられて笑みを零した。かわいい。まるで地上に舞い降りた天使のようだ。出会った当初は無表情だったが、最近はこうして笑顔を見せてくれるようになった。ふたりの距離が縮まっていくようで嬉しく感じる。
だが、神狩が白雪について知っていることは全くない。白雪は何歳なのだろう。白雪は自分のことを何も語らない。尋ねてみようとは思うものの、なんとなく、聞いてはいけないような気がする。10歳くらいのようだが、ランドセルを背負っている姿は見たことがない。誰と暮らしてるのだろう。料理をするって、誰に?
口から溢れそうになる疑問を、神狩はぐっと飲み込んだ。今はまだ、分からないままでいい。これからゆっくり仲よくなれば、いつか白雪から話してくれるだろう。その時が、すぐに来るといい。そう願いながら、神狩は白雪と別れた。
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