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土曜日。待ち合わせ場所である本屋へ行くと、そこにはすでに白雪の姿があった。
「雪ちゃん!」
慌てて小走りで駆け寄ると、ぼんやりと宙を見ていた白雪が、神狩の方へ顔を向けた。青色の瞳に光が灯る。
「ごめんね、待った?」
「いいえ」
白雪が首を振ると、頭の上のリボンも同じように揺れた。よかった、と胸を撫で下ろして、早速ふたりで神狩の家へと足を進める。
もうすぐ梅雨が来るというのに、空はからりと晴れていた。休日なだけあって、街はいつも以上に騒々しい。神狩と同じくらいの年齢の少女たちが、楽しげに会話しながら横を通り過ぎていく。
隣を歩く白雪をちらりと見る。日差しが徐々に夏の色を帯びているというのに、この少女は相変わらず雪のような白さを保ったままだ。その白さゆえの儚さが、人混みに彼女を同化させることを阻止している。
彼女のことを、もっと知りたいと思った。特別親しいわけではない。友だちと呼ぶには日が浅いのかもしれない。それでも、知らなければいけないと思った。どうしてそう思うのかは分からない。ただ直感的に、この出会いに運命じみたものを感じていた。白雪という人間のことを知って、知って、知り尽くさなければならないと思った。この細くて弱い腕を、しっかりとつかんでいなければならない。そんな、予感がしていた。
「本当にいいんですか」
玄関の扉を開けると、白雪が小さな声で神狩に問いかけた。
「うん、お母さんも妹もいないし。さ、上がって」
神狩が促すと、白雪は遠慮がちに「お邪魔します」と玄関に足を踏み入れた。きちんと靴をそろえてから、神狩のあとに続いてリビングへと入る。
「適当に座ってね」
「はい」
白雪は素直にソファへと腰を下ろした。冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップに注ぐ。コップとともに、神狩は用意していた袋を白雪に差し出した。
「これ、こないだ言ってた料理の本。もう使わないし、全部あげる」
「いいんですか?」
白雪は袋を受け取り、おずおずと中身をのぞき込んだ。神狩はコップを机に置いて、うん、と大きくうなずいた。袋から1冊の本を取り出し、中身をぱらぱらとめくる。
「これとか初心者向けだし、難しくないと思う。でね、今日はこのアップルパイ作ろうと思うんだけど、それでいい?」
「はい。……ありがとうございます」
「よし、じゃあ早速作ろう!」
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