□□□

2/6
前へ
/107ページ
次へ
 そんな頃を迎えると周囲の俺を見る目が変わってきたなって感じ始めてさ。銀行や司法書士、測量会社に弁護士。親父の仕事量が徐々にセーブして俺に託すようになってきた時でもあるんだけれど、周囲の人間が言葉にはせずとも、何となく俺を見る目が『親の七光り』って目をしているんじゃないかって疑心暗鬼になってきたんだ。俺ってそういう所は特に捻くれて、穿った目をしているから、被害妄想をするようになったんだよね。ちょっとした相手の視線や発言が、小馬鹿にしているように聞こえるんだよ。俺を見ていないで、俺の後ろにいる親父に向けられた言葉じゃないかってね。だから、どうしたって話なんだけど徐々に自分を客観視するような時期だったんだよな。  会社を継ぐ事を決めて今の立場になると、幅広い年齢層と触れる機会が増えてさ。価値観や物事の捉え方、感情の起伏に伴う言動。性別や年齢によって、千差万別だ。生き方に対する狭かった視野が一気に広がってね、人生観の変化が日々絶え間なかったんだ。それが、なんだか刺激的でね。もっといろんな人達に触れて、経験を重ねたいって考えるようになったんだ。  店にはいろんな人達が尋ねてくる。言い方は悪いけれど、身なりが小汚いおっさんが突然来てさ、いかにも公園に住んでいますって見た目の六十歳くらいな訳よ。最初は適当に世間話をしていたら、駅前の土地と人気の住宅街にある二百坪の土地を売って資産処分したいって話になった時は驚いたな。本人確認と登記事項証明書を見ると、本当だったよ。人は見かけで判断するなって言葉を可視化した典型的な例だよな。  反対に身なりもそれなりで、話していてしっかりした中年の公務員が実は車やカードのローンがあって、月々の支払いが滞ってローンの借り入れ審査が通らないってケースもある。しかも家族に内緒で借入しているケースが大半だ。これも一つの人は見かけで判断するなって事だよな。蓋を開けてみないと、人間はわからない。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加