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 麻衣さんの月命日が過ぎた後に、休日を利用して麻衣さんのお家にお邪魔したの。涼真さんを通してご両親に連絡をとってもらってね。ご両親は快く承諾してくれたって聞いて安心したわ。  拓哉さんに案内してもらった時に大学で見た、麻衣さんが書いた設計図や研究資料、論文を見て刺激を受けたの。そこから麻衣さんに関する事を見聞きして、月命日の出来事を経験したら、麻衣さんに会いに行きたくなったのよ。  私鉄を乗り継いで一時間くらいだったかな。県内の中でも都心よりだったから、私が住んでいる場所より都会だった。最寄り駅について百貨店でお供え物用にゼリーの詰め合わせを買ってからご自宅に向かったわ。  駅から歩いて十分くらいの距離だった。開発行為による閑静な分譲地内だったから、周囲の街並みより新しくてね、その場所だけ一際目立っていたの。百は優に超えるくらいの戸数だったから大手の不動産会社とハウスメーカーによる造成地って一目でわかったわ。舗装された道に緑力しい植栽と小さな公園があってね、その中でも東南角地の場所にあった事と、サイディング張りが多い中、パワーボードの白壁が目立っていて直ぐに御自宅が見つかったの。  お二人は私を笑顔で出迎えてくれてね。正直、少し緊張していたからお二人の顔を見た時に緊張が和らいだわ。お家はナチュラルな仕上がりになっていてね、ブラウンのフローリングに白を基調とした壁紙と壁の一部が花柄のアクセントクロスになっていてお洒落だったな。天井が高かったから木造じゃなくて軽量鉄骨だと思うわ。  伺う前に買ったお供え物をお渡しした後にリビングに通されて目に付いたのが麻衣さんの御仏壇だった。ロウソクの火でお線香に火を灯して合掌したわ。私の自己紹介とこれまでの経緯を簡単にお話ししたの。  その後に椅子に座ってお二人とお話ししてね。殆どは私に関する身の上話だった。特別話が盛り上がる事を話したつもりはなかったけれど、お二人とも興味深そうに話に耳を傾けてくれてね。話が一段落した後に、お父様が「麻衣の部屋を見て行かないか?」って仰ったの。  二階に上がって突き当たりの部屋を案内された。六畳程度の洋室は、今でも生活感が残っているようだった。女の子の部屋っていうより、男の子の部屋って言われた方が合っているのかも知れないって思うくらい女の子要素の物が置いてなかったの。  壁一面には世界の建造物の写真が貼られていてね、オーストラリアのオペラハウスやイギリスのリンカーン大聖堂が特に目に付いたわ。それにデスクトップのパソコンが二台とテレビ。その他にもスチレンボードで作られた二階建ての建築模型がボードの上に置かれていた。書籍も多くてね、巨匠と呼ばれる世界的な建築家が設計したプラン集や建築論でいっぱいだった。
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