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「私は、健人に任せようと思っています。健人の答えが見つかるまで私は待っていようと思っていて」 「……答え?」 「彼には時間が必要だと思うんです。麻衣さんの事に関して、ちゃんと心の整理が出来ないと、私達はもう一度関係が戻った所で同じ結果になるんじゃないかって」 「でも、彼が心の整理が出来た時に理帆ちゃんに戻るとは限らないでしょ? もし……その、他の女性とってなったら―――」 「おい、お前」ってご主人が奥様を制止てね、ばつの悪そうに奥様はしていたわ。でも私、全然気にならなかった。 「それならそれで構わないと思います。健人が前に進んで生きていけるなら……本当に、今はそれだけで」  あの日、麻衣さんの月命日で見た健人があまりにも痛々しかった。どれだけ今まで自分を苦しめていたのだろう。価値観を変える程の十字架を背負い、仕事に精を出してきた健人があの日に解放されて、直ぐに以前の精神状態に戻るとは思えなかった。今は休息が必要に決まっている、そう信じていたの。 「……本当にそれでいいのか? 理帆ちゃんは本当にそれで」  お二人の私を見る目が同情と申し訳なさそうな想いが綯い交ぜになっているようで、こっちが気を遣うくらいだった。あの日、私も健人をこんな目で見ていたのかなって思ったら申し訳なかったな。 「互いに高め合える関係が好きなんです。今の私は健人と比べれば知識も経験も劣ります。私が成長しないと釣り合わないっていうか」  あの日の健人を見るまで、どれだけ自分が幼稚な考えで相手を思い遣る心がなかったんだろうって後悔した。私が生きてきた世界では常識的な考えを持つ人間として当たり前な事だったのに、それが当たり前じゃなかった。大げさな表現のように聞こえるかもしれないけれど、そんな事を思わせるくらいのきっかけだったのよ。先ずは麻衣さんの事や建築の事に改めて向き合う事にしたの。
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