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「それなら、海外で勉強してみるかい?」 「……海外ですか?」 「以前、スペインの大学で講師をしていた事があってね。今でも向こうの教授とは付き合いがあるんだ。もし、本気で考えるなら話をつけてみるよ」   思いがけない話だった。両親の影響で海外に対する意識は前からあったのよ。もともと建築の道に憧れを持ったのは海外の建造物の影響だったし、いつか行ってみたいって考えていたわ。その日は直ぐに返事が出来なかったから、後日ご連絡をするって形で終わって帰ったの。  正直、行きたい気持ちは強かった。思いがけない話を決めるのはタイミングと決断力よね。拓哉さんがくれた話のタイミングとは違うもん。何かを失えば何かを得る、捨てる神がいれば拾う神がいるじゃないけれど、ここで決断しないと後悔するって未来が見えていたわ。  それでも誰かが背中を軽く一押ししてくれれば気持ち良いんだろうなって想いがあったの。小さな不安や恐怖を消し去る事が出来たらって思いで例の如く、困った時のかなさんって軽い気持ちでスマホを手に取った瞬間だった。 私はこれから先も、かなさんに頼り続けるのかなって。かなさんに依存し過ぎていたのよ。  かなさんには感謝しているわ。今まで何度も心の支えになったし、かなさんがいなければ今の自分がいないって言っても過言じゃないくらいよ。でもね、そろそろ自分の足で歩かなくちゃいけない時期なのかなって、何となく思ったの。かなさんの答えを言い訳にして自分に都合の良いように解釈する事に慣れてしまう事が怖かったのよ。だから、今回は相談しなかったわ。  先ずは両親に相談した。二人共驚いていたけれど、私の夢を応援してくれたわ。その頃には不安よりも興味が大きかったの。自分の世界観や価値観が変わるんじゃないか。今まで触れる事が出来なかった世界に飛び込める好奇心でいっぱいだった。  あとは会社に相談しなくちゃいけなかった。上司に相談する前に、友香さんに連絡したの。仮にも新人の身だったし、いきなり会社に相談した所で聞く耳を持ってくれないんじゃないかってね。私もその時まで知らなかったんだけど、会社の研修制度があってね。友香さんが教えてくれたの。一部費用は会社が負担してくれる制度で、取締役会で承認される必要があった。本社での面接を重ねて承諾をもらえたわ。その後に麻衣さんの両親に連絡してね。あとは海外の仕度と準備の期間にしたわ。日程の連絡が来ると、変わり映えのない日々を過ごしていたの。
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