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 空港に着いて両親と別れの挨拶を済ませると、ロビーで搭乗するゲートの確認をしたらまだ時間があってね。近くの椅子に座って待っていたら、段々と本当に日本を発つんだって実感が湧いて来たの。実は私、海外に行く事自体がその時が初めてだったのよ。  二十歳を超えた女が何を緊張しているんだって思う? 初めての子供のお使いじゃないんだから恥ずかしくないのかって声も聞こえてきそうね。でもね、誰だって初体験って怖かったり緊張したりする事って、当たり前だと思わない? ましてや一人っきりで、言葉も伝わらない国に行くのよ? 正直、不安で一杯だった。  誰かに助けを求めたい、誰かと繋がって寂しさを埋め尽くしたいって思う事は当然だと思うの。そんな時に限って、思い浮かんだ顔が健人だった。別れてから三年以上会っていなかったのに、たった半年会えないだけで恋い焦がれる気持ちに駆られていたわ。  そこで搭乗アナウンスが流れてね。思いっきり気合いを入れ直して、ゲートに向かって歩き出したの。ドラマとかだったら、このタイミングで主人公がヒロインを呼ぶ声が聞こえてヒロインは立ち止まるの。振り返ったら、主人公が走って来て肩で息をして現れるのよね。  あの時の私って本当に馬鹿だったと思う。何を期待しているんだろう。何を待っているんだろう。いるはずがない健人の声が聞こえてきてね。来るはずかない健人の声が私の名前を呼んでいたのよ。ゲートの列に並んでいる時に後ろを振り返っても健人は見当たらなかったわ。当然よね? だって健人に知らせていないんだから。
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