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 ところが当日は話が上手くいってさ。二人の両親はそれなりに物件を見ながら細かな質問はしてきたものの、神経質な感じではなくて想定範囲の質問ばかりだった。どれも言外には彼女達に対しての心配が含まれている事がわかってさ。特に理帆の両親は俺に対する一定の敬意を払ってくれているような話し方だったから、こっちも求められている回答に上乗せした情報をついつい話したよ。それなりに筋だったり、相手を立てた接し方をされたら、応えたくなるのが人間だよな。  聞けば理帆の両親――隆一さんと母親の陽子さんは、職場恋愛で結婚したらしいんだ。隆一さんは現役引退しているみたいだけど、今でも後輩の育成で会社に駆り出されているみたい。端正な顔立ちと白髪交じりの髪は、昔の外国俳優みたいで渋くて格好良いんだ。物腰は柔らかくてさ。陽子さんは今でいうキャビンアテンダント。すらっとして凛とした出で立ちに品性を感じるんだよな。二人共素敵な歳の重ね方をしていてさ、将来はこういう大人になりたいって思わせる人柄なんだ。 「一人娘だから心配なんですよ」って隆一さんが離れた所から陽子さんと理帆がキッチンで話している姿を見て呟いたんだ。 「仕事で海外を飛び回っていたから、日本に帰国して理帆と過ごす時間が短くてね。理帆は親離れをしたがっても僕がなかなか子離れ出来ずにいるんです」  頭を押さえながら自嘲気味に話す姿が、なんだか大人の余裕を感じさせてさ。自分の事を僕って呼ぶ事に大人の強さと余裕みを感じたんだ。ちゃんとこの人は相手の目線まで下りて話が出来る人だってね。 「お父様のお気持ちとしては、複雑ですね」 「いつまでもって訳にはいかないのは解っているんだけど、なかなかね。やっぱり不安なんですよ」 「ちゃんと娘様は将来の事だったり、お考えをしっかり持たれていらっしゃいます。お話していて、そう感じました」 「桜木さんだって立派じゃないですか。理帆とそう変わらない歳なのに、会社を背負っている立場なんだから」 「いえいえ。父親の跡を継いだだけで、まだまだ勉強不足な所が多々ありますから」 「あなたのような謙虚な男性に理帆をもらってもらいたいもんだ」って隆一さんが突然そんな事を言うから、妙に意識しちゃったよ。 「またまた、御冗談を。娘様が一人暮らしをなさるだけで、こんなに悲しそうにされるのなら、ご結婚は非ではないでしょうね」 「それは勘弁してよ」
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