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あんなに緊張したのは、大学の入試以来だったな。店の前で大きく深呼吸をすると、意を決して店に入って行ったの。健人がいるか見渡していると店内の奥から顔を覗かせる健人と目が合ってね。軽く会釈すると、小走りに健人が近寄ってきたわ。
あの時の健人の顔は面白かったな。鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていたんだけど、どこか顔が強張っているようにも見えた。私も私で健人の顔を見たら、また緊張がぶり返してきちゃって、耳が熱くなってくるのがわかるの。最後に健人と会った時より緊張していたわ。
挨拶もそこそこに手土産を健人に差し出した。最初に差し出したのは、商店街で買った詰め合わせの菓子折り。謂わば、これは伏線よ。後に差し出すのが本命のプレゼント。大人の女性として、こういう事はちゃんと出来る女性よってアピールよね。相手は学生じゃなくて、社会人の男性だから、こういう事も女性を選ぶ判断材料なのかなって考えたの。
その後にネクタイのプレゼントを渡したわ。ハンカチとネクタイで迷ったんだけどね。健人は喜んでくれた様子だった。いつか私が選んだネクタイをつけて仕事をしている所を見てみたいなって。長居はするつもりなかったから、あっさり帰ったの。余韻を残した方がネット記事で書いてあったから実行したわ。目標は健人に私を意識させる事だった。正直、緊張しちゃって余裕がなかったな。何も出来なかったけれど、やれる事はやったかなって一定の満足はあったの。正直に言えば大変満足って訳じゃないわ。
次の手を考えなくちゃいけないって思ってね。一層の事、健人から連絡先の交換や食事の誘いでも来ればラッキーだったのに、健人からはその後、全然アプローチがないんだもん。もしかして私の事、そんなに気になっていないのかなって。ここまでやってアプローチの一つや二つないと、なんだか肩透かしを食らった気分。歳下の子供みたいに思われる事が一番怖かったんだ。あの時は背伸びをして健人の目線に立とうと必死だった。
と言うのも私、今まで自分から告白をした事がなかったの。自慢じゃないけれど告白される側に立った事は過去にあったけれど、付き合った事はないの。本当よ? 男性とデートはした事があるけれど、ちゃんと告白されて彼氏彼女の関係になった事はないわ。だからいまいち、相手との距離の詰め方がわからなかったの。そう、言い訳よ? 悪い?
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