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 それでね、奈菜と都合を合わせて不動産屋に行く事にしたの。引っ越し先は、大学と実家を三角形で点を結ぶような距離までが私達の両親が援助してくれる条件でね、必然的に場所は限られていたわ。大学と実家、片道電車で三十分の距離よ。それを見越して条件を出して来るあたりは、両親は私の事が本当に心配みたい。スープの冷めない距離って言葉があるけれど、その距離じゃ一人暮らしをしているって実感はあるのだろうかってね。  千葉県を大きく東西に横断している私鉄を乗り継いで最寄り駅の南口を下りると、駅前には百貨店や古くからありそうな書店街があって賑やかな街だった。今まで通り過ぎていた駅だったんだけど、初めて駅を降りたら生活しやすそうな街って印象だったな。  事前に奈菜とはインターネットの不動産広告を見て物件の目星をつけていたの。家賃の事もあったし、間取りは二LDKに絞り込んだ。オートロック付きの物件を三件に絞ると、その三件とも同じ不動産屋が取り扱っていたから、そこに行って見学してみようって話になってね。駅の南口にあるロータリー沿いに目的地の桜木不動産があるの。十階建て以上はあるビルの一階部分が桜木不動産。二階からは上は居酒屋や美容室、学習塾とかいろんな会社が入っていたわ。あとで聞いたら自社ビルだったんだって。  店構えは昔からありそうな古い不動産屋って感じだったな。ネットで見た外観写真と全く同じだった。看板も薄く剥げて色褪せていたし、ちょっと怖くなったのを覚えているわ。だって不動産会社に行くのって、なんとなく敷居が高いでしょ? 他にも店は何社もあったの。誰もが一度は耳にした事がある大手の会社や有名な女優さんを起用したCMでお馴染みの会社。店が綺麗そうな会社もあったけれど、そんな中で桜木不動産を選んだのには、ちょっとした理由があってね。  奈菜とネットで物件を三件に絞った時、同じ物件を扱っている会社が何社もあったの。正直、どこの会社に問合せをすればいいんだろうって話になってね。見る限り、どこの会社も違いはなさそうだったし、あとは担当スタッフ次第って話になったわ。
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