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店内の写真はネットに載っていなかったら、雰囲気が事前にわからなかったの。私が想像していた、点滅を繰り返す蛍光灯に薄暗い雰囲気。煙草の煙で汚れた壁紙と天井とは、かけ離れていたわ。
清潔感のある仕上がりになっていてね、明るい店内だったの。ナチュラルテイストっていうのかな、床はベージュのフローリングでテーブルと椅子は事務所にあるような無機質なものではなくて、まるで家にあるような身近に感じる木製の造りだった。決して広くはなかったけれど、ほっと安心するような空間だったわ。
私達を最初に出迎えたのは四十代くらいの女性の事務員らしき人でね、奈菜が要件を伝えるとテーブル席に案内してくれたわ。しばらく待っていると足早に近づいて来る足音が聞こえてきてね、奈菜と目を大きくして顔を見合わせたの。
「お待たせ致しました」
姿を現したのは上下紺色のスーツを着た桜木健人だった。差し出された名刺には確かに取締役って肩書が書かれていた。ネットの写真で見た通りだったわ。
「今日はどのようなご用件で?」
「私達、見てみたい物件が決まっているんです」って奈菜がスマホを取り出して物件のページを健人に見せたの。健人は奈菜のスマホを受け取って確認すると「資料持ってきますね」って言うと席を立っていったわ。
「ねぇ、理帆見た?」
「何を?」
「取締役、すっごい高そうな時計してた」
興奮した様子の奈菜。確かに健人の袖口から煌びやかな時計が見えたわ。時計には詳しくないけと、高級そうだったのはたしかね。
「理帆はタイプじゃないの?」
「そっ、そんな事ないけど」
奈菜が私に向ける視線の意味を、その時は図りかねたの。何かを企んでいそうな悪い顔だった事は確かだったけれど、それ所じゃなかったから深く考えなかった。だってその時の私は平常心を保つ事に必死だったから。緊張で手汗は酷かったし、両耳が赤く火照っているのは自覚していたもん。
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