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 戻ってきた健人は物件の間取りや詳細が書かれている資料を私達の前に置いて、敷金や礼金について説明を始めたわ。途中、私達の予算や引っ越しの理由とか聞いてきたりしたけれど、奈菜が殆ど答えてくれてね。奈菜はスイッチが入ったように、活き活きと話しているの。私が口を挟まない事を気にしたのか、健人が奈菜の話しの確認をするような感じで、何度か話を振ってきたの。私はそれに頷いたり、返事をするくらいで精一杯だったな。  話しが一段落すると物件を見に行く事になってね。物件は三件とも歩ける距離にあったから歩いて行こうって話になったわ。道中の健人はいろいろ街の良さを教えてくれた。ここのスーパーは肉が安いとか、美容室はここがよく混んでいる。ここの喫茶店の店長はマジックが得意で面白いとか住んでいるからこそ知っている情報を積極的に話してくれた。当時は実家を離れて暮らすのは初めてだったからね、どんな街かを知らないから健人が教えてくれた情報は嬉しかったな。より生活のイメージがしやすかった。 「桜木さんって、おいくつなんですか?」って奈菜が一件目の物件に着いた途端、健人に尋ねたの。私も気になっていたから、耳を大きくして聞いていたわ。健人が電気を点けて、カーテンを開いてサッシを開けると、室内に籠った空気が外に流れていった。 「今年二十三です」 「私達とそんなに変わらないのに取締役だってすごくない? ほら、理帆だって気になっているくせに」 「うん、まあね」  私は奈菜ほど気になっていないって雰囲気を醸し出すように演出したわ。だって変なイメージを持たれるのが嫌だったから。落ち着いた大人の印象を受けていたからもう少し年上って思っていたけどね。 「父親が代表をやっているだけで、取締役なんて大したことないですから。あっ、こっちがバルコニーです。南側に面しているので陽当たりはいいですね。八階建の六階部分だから開放感あります。オートロックだから防犯面も安心ですよ」 「桜木さんは彼女とかいるんですか? あっ、もしかして結婚されているとか?」  奈菜は健人がせっかく部屋の説明をしてくれているのに、お構いなしに質問責めよ。私も気になっていただけに奈菜を咎める事もせず、水回りを見ながらも意識はそっちに向いていたわ。
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