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「いませんよ。彼女もいないし……ほら、結婚もしていないです」って左手の薬指を私達に見せたわ。指輪をしていないのは、店にいた時に確認済み。
「そうなんですか? こんなにかっこいいのに彼女がいないなんて信じられないです」って奈菜が私に同意を求める視線を向けてくるのよ。堪らず私も激しく首を縦に振ったわ。
「お二人だって、可愛いじゃないですか? 彼氏はいるんでしょ?」
「それが私達いないんですよ……華の女子大学生なのに」
肩を落としながら、再び奈菜からの同意を求める視線に激しく同意を示しながらも、健人に可愛いってお世辞でも言われた事に動揺を隠す事で必死だったわ。
「桜木さんは、どんな女性がタイプなんですか?」って間髪入れずに奈菜の踏み込んだ質問が炸裂よ。内心、奈菜ナイスってガッツポーズしたわ。私がもっとも聞きたかった質問だったから。
「自分の考えをちゃんと持っている大人の女性は素敵だなって思いますね。素直さの中に強さを持っている一生懸命な女性は魅力的です」
「だってよ、理帆?」ってキッチンを見ていた私に奈菜が突然、話を振るから大慌て。視線の先に健人が覗き込むように私を見ていたからどきどきしたわ。この時、健人が言った『大人の女性』って意味がはっきり理解出来なくてね。単純な年齢って意味だけじゃない気がしていたの。正直、菜奈がもっと詳しく尋ねてくれないかなって考えていた。
「きっ、綺麗ですね……リフォームされたんですか?」もうこの返しが精一杯。話の脈絡は一切なかった。
そこから話しは戻って、仕切り直すように健人が物件の説明を始めたわ。リビングのカーテンを開けると明るい日差しが差し込んできた。ニLDKの間取りは私達に充分過ぎる広さと綺麗さだった。
健人は物件の良い所も悪い所もしっかり教えてくれたわ。駅が近い分、電車の走行音が気になるかもしれないって健人は話したけれど、私達は気にならなかった。比較する為にも残りの二件も見に行こうってなってね。最終的に最初に見た所が良いなってなったの。
帰る頃には、すっかり日が暮れていてね。帰りの電車内では物件の話しより健人の話しで盛り上がった。物件を見に行ったというより、健人に会いに行ったって方が表現として適切かもね。
「理帆、桜木さんの事好きでしょ?」
「……ばれてた?」
「何年の付き合いだと思っているの? でも、初めて見た。理帆があんなに動揺するなんて」
私だって驚いていたわ。奈菜に見られたって恥ずかしさより戸惑いの方が大きかった。どうしてこんなに狼狽えなくちゃいけないのって気持ちの方が強かったな。健人が目の前にいるって意識したら余計大きくなって、やっぱり好きなんだって実感したの。
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