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「……涼真さんから聞いたの」  その一言で全てを察知したような表情を健人はしてね、まるでドラマで見る容疑者が観念したような安堵の表情にも見えたな。すると健人は踵を返してしゃがむと麻衣さんに献花を添えて手を合わせた。  しばらく健人の合掌が終わらなくてね、国道を走る車の走行音と同時に吹き付けてくる寒風を気にも留めない様子だった。それだけ麻衣さんと話をしたい事が沢山あったんだろうなって。  立ち上がった健人に「私達もいい?」って聞いたら健人は頷いた。その表情は私が今まで見た事のないくらい寂しそうで虚ろな目をしていた。涼真さんと一緒に献花を添えて、手を合わせた。生前にお会いした事がなかったけれど、同じ女性として同じ建築の道に進もうとしていた先輩として全く縁がないとは思えなかったわ。  立ち上がると「……それじゃあ帰ろうか?」って涼真さんが言ってね。私が涼真さんに向き直ると、涼真さんが健人を一目見て首を振ったの。今は健人に話しかけない方がいいって言っているようだった。  居たたまれない気持ちに駆られてね、健人が苦しそうに見えたの。健人を縛り張り付いているものに健人が身動き出来ない、そんな風に見えた。でも私には何をしてあげればいいのか、何をすれば健人は解放されるのか、わからなかった。なんて言葉をかければいいの、何をしてあげればいいのって、もどかしさと歯がゆさが募ってばかりだった。健人と麻衣さんの関係性は結局、特別なもので私に何が出来るのだろうって自分を蔑んだくらい。 「もう行こう、理帆ちゃん」  健人を見て立ち尽くしている私の手を涼真さんが引っ張って、その場から離したわ。何も出来ない私は涼真さんの引っ張る手に抗う事が出来なかった。悔しくて、悔しすぎて涙すら出なかったのよ。  しばらく歩いていると「申し訳ございませんでした」って車が横を走る大きな走行音を掻き毟って飛び込んできた声が聞こえてきてね、涼真さんと顔を見合わせると一緒に振り返った。すると健人が見知らぬ二人に土下座をしていたの。何が起きているのか、わからなかったけれど近づいていったわ。
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