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「……前田理帆と言います。健人とは―――」  そこから健人との付き合いや、麻衣さんの事を涼真さんから聞いた事など話したの。やっぱり私の想像通り、二人は麻衣さんのご両親だった。お父様は眼鏡をかけた長身痩躯の清潔感を感じる頭の良さそうな人だった。お母様は優しそうで品を感じる雰囲気を持っていたけど、娘を失くした事による精神的疲労を顔に滲ませていたの。化粧ではとても隠し切れない程にね。 「麻衣が……天国にいる麻衣が私達を引き合わせてくれたのかな。あなたにとって不本意かも知れんが、あなたは娘にとても似ている」ってお父様がお母様に同意を求めると、お母様が「えぇ、本当に」って目に涙を浮かべながら答えたわ。たしか拓哉さんも私と麻衣さんの雰囲気が似ているって言っていたな。 「勘違いして欲しくないんだが、健人君にはもう謝らないでほしいと何度も話しているんだ」ってお父様が話した後に「もちろん、最初はどうして麻衣をちゃんと見ていなかったのって彼を非難した事もあったわ。でも時間が経ってくると彼には酷い事を言ってしまったと後悔しているの」って奥様が健人を見ながら話したの。 「俺がいけないんです。携帯を触っていて、そこの信号が青になった事に気付かなかった。隣に立っていた麻衣が先に歩いても気付かないで携帯を触っていた俺は、麻衣が立ち止まって俺を呼んだんだ。その時……その時に俺が顔を上げるとすごい勢いで車が目の前を……それで麻衣が」  嗚咽を交えながら話終えた健人が顔を両手で覆い尽くして膝から崩れ落ちたの。なんて、なんて無残で残酷なんだろう。目の前で愛する人を失くした光景が健人には鮮明に映像として今でも残っているんだわ。 「麻衣の事を忘れてくれとは言わないよ。だって麻衣にとっては最後に会った愛する人が健人君なんだから」お父様が座り込んだ健人の肩に手を当てながら話すの。 「ただ、麻衣の事を理由に健人君の将来の妨げになって欲しくはない。それはきっと、麻衣も望んでいるに違いない。健人君にはわかるだろう? 麻衣は自分より他人の事を想える優しい子だったんだから。彼女のように好きな人の為に頭を下げられるくらい愛していたんだよ」 「あなたがこんなに今まで苦しんでいたなんて、知らなかった。あなたは麻衣の事を想って苦しんでくれたわ。もう、充分よ」って奥様も健人の事を想って話してくれた。
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